東日本震災後の混乱期にひっそりと起きたアスベスト飛散事故。児童の被曝が懸念されるなか、行政はほとんど隠ぺいするような対応を続けた結 果、住民から監査請求や訴訟まで起こることになった。最近明らかになり始めた「煙突」解体での飛散問題の典型を、井部正之が紹介する。(編集部)
◆2カ月後の調査で「影響なし」
5月下旬、神奈川県綾瀬市の小学校でアスベストを周辺に飛散させる事故が起こった。飛散事故があったのは同市立綾瀬小学校の旧校舎の解体工事で、工 事を請け負った小島組が5月26日と27日の2日間にわたって、旧校舎に2カ所あった機械室に設置されていた煙突の内側にアスベストを含有する耐火材が使 用されていたにもかかわらず、アスベスト対策を講じることなく解体した。
これらの耐火材には飛散しやすく発がん性の高いアモサイトが使用されており、含有率は80~90%。ほとんどアスベストといってよい危険な代物だ。
綾瀬市が飛散事故について公表したのは7月21日。この時神奈川県は事故から2カ月も後になって現地の敷地境界で大気中のアスベスト濃度測定をして 「環境に影響なし」と発表した。その結果、700人以上の生徒や教職員、周辺の住民が大量のアスベストを曝露した可能性のある事故にもかかわらず、ほとん どベタ記事の扱いで地方紙に掲載されただけだった。
解体工事は校舎の新設にともなって3月中旬から9月末まで実施していた。綾瀬市によれば、7月16日に解体現場に訪れた人がアスベスト飛散の可能性を指摘。同19日に解体工事を請け負った小島組からの連絡で市は初めてこの件を知り、同21日に公表したという。
驚くべきことに、そもそもこの解体工事では労働安全衛生法の石綿障害予防規則(石綿則)で義務づけられているアスベストの事前調査を実施していない のだ。当然ながら労働基準監督署への届け出はされず、アスベスト飛散防止対策も講じられなかった。しかもアスベスト混じりの解体がれきは近隣2市の破砕業 者に持ち込まれ、再生砕石として県内65カ所でリサイクルされた。
なぜこのようなことが起こったのか。綾瀬市は2005年と2008年に市内の公立学校のアスベストを調査し、綾瀬小学校の給食配膳室の天井などに吹 き付けられたアスベストの除去工事もした。だが、文部科学省からの調査指示は「基本的に吹き付けアスベストだけ。ほかのは見てない」(建築課)とそもそも 調査にもれがあった。
ところが、市は解体工事および施工監理の発注でアスベストの事前調査について明記していなかった。「経験がないためわからなかった」(同)。
設計・監理を担当した綜企画設計は「解体工事としての設計を依頼されていたが、石綿の調査は依頼されていない。金額的にも含まれていない」と話す。 ただし同社が作成した発注仕様書には特記事項に国土交通省の標準仕様書を適用するとした。同省の標準仕様書には解体業者へのアスベスト調査の指示がある。
施工した小島組は「市から事前調査の指示や調査費用の計上がなかったので、事前調査が終わっているという判断をしてしまった」と悔やむ。施工監理をした綜企画設計から事前調査の指示や確認がなかったのも釈然としないという。(続く)