福島第1原発の汚染水処理に大きく貢献すると期待された多核種除去設備(ALPS=アルプス)」。しかし、いざ運転を始めてみるとトラブルの連続である。今日は、京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに、このALPSと汚染水問題の今後の展望について聞いた。(ラジオフォーラム)
◆ 現在の汚染水はALPSの浄化能力を超えている
ラジオフォーラム(以下R):汚染物質を取り除き、1日750トンの汚染水が処理できるということで、鳴り物入 りで導入されたALPSという装置ですが、試験運転的に稼働させましたら、十分に浄化されてないということでした。やはり、ああいう過酷な環境の中でキチ ンとした物を設置するというのは、かなりハードルが高いということなんですね。
小出:はい。大変難しいだろうと思います。
今、汚染水の中にある放射性物質の内で特別に重要なのは3種類しかありません。セシウムとストロンチウムと、そしてトリチウムです。セシウムに関しては、 これまでもそれなりに捕捉できる装置が動いてきました。ただし、捕捉する、捕まえるということは、消したということではないのです。いわゆるゼオライトと いう粘土鉱物にセシウムをくっつけただけなのです。
汚染水の中にあったセシウムは、どんどんゼオライトにくっついてきます。あるところまでいきますと、ゼオライトはセシウムをくっつける力を失ってしまいま す。そのゼオライトをそのまま保管しているのですけれども、ゼオライトそのものの温度はすでに何百度にもなってしまっていると思います。そして、放射線も 出しているわけですから、保管すること自身も大変危険なことなのです。
セシウムを取り除いても、汚染水の中にはストロンチウムとトリチウムという放射性物質が残っています。ALPSという装置、あるいは他の装置を組み 立てたところで、トリチウムという放射性物質は全く捕捉できません。ですから、もし、ALPSでやる意味があるとすれば、ストロンチウムという放射性物質 を取り除くことです。東京電力の説明によれば、汚染水の中からストロンチウムを捕まえて、汚染水の中のストロンチウムの濃度を法令が定めている濃度限度以 下にできれば海に流せる。というのが東京電力の描いている絵なのです。
R:小出さんはそれができるとお考えですか。
小出:いいえ。残念ながら、それはできないと思います。まずは、ALPS自身がまともに動かないということがありますし、仮に動いたとしても恐らく私はできないと思います。
例えば、つい先日もタンクの中から汚染水が漏れていますけれども、ある時に漏れた汚染水の中には「全ベータ放射能」と私たちが呼ぶ放射能の量が、1cc当たり2億4千万ベクレルという時がありました。
R:とんでもない数値ですね。
小出:恐らくそれの正体は、ストロンチウムだと私は思っています。もし、環境中に放射能を流していいという濃度 まで下げなければいけないとすると、その濃度は1cc当たり30ベクレルなのですが、実際には汚染水の中に1ccあたり2億4千万ベクレルもの放射能が あったわけです。一言で言えば、1000万分の1にまで綺麗にしなければいけないということなのです。
R:それは可能なのでしょうか。
小出:私も京都大学原子炉実験所の中で廃液の中から放射性物質を捕まえるという仕事をしている人間です。その経 験からいうと、「汚染を1000分の1まで減らせ」と言われれば「できる」と即答します。「1万分の1に減らせ」と言われたら「まあできるだろうな」と思 います。 「10万分の1にしろ」と言われたら「ん~、できるかなあ」と首をひねってしまうという、そういうぐらいのことなのです。
ただし、私が「できる」「できない」と言ったことは、それほど被曝をしないでも済むような場所で、きちんとした装置を使って、きちんと作業を行える ことが前提です。そうではない現場で、きちんとした装置ではないものを使って、被曝をしながら作業をして、1000万分の1にしなければいけないという状 態に今なっているわけですから、残念ながら、これではできないと私は思います。そうなると、いつか汚染水そのものを海へ流さなければならなくなる日が、そ う遠くなく来るだろうと思います。