かつてベトナム戦争に参戦し、4千数百名におよぶ戦死者を出した韓国。泥沼化するイラクへの派兵に正当性はあるのか。

「韓国はなぜイラクへ派兵をするのか」
日韓のイラク派兵をめぐる議論は倒錯している。小泉首相などは相も変わらず、「テロにひるむな。卑劣なテロと闘う」とひとつ覚えで言うけれども、いまイラクで「テロ」を行っている最大の主体はまぎれもなく米国なのである。

イラク現地では、米軍により米兵の犠牲者の数十倍のイラク人が殺害されてきた。一般のイラク人にとっては米軍の空爆や掃討作戦は「国家テロ」以外の何物でもないし、友人や肉親の命を奪われた人々の憎しみは蓄積されるばかりである。これではかつて先住民族を「駆除」していった米国と同じではないか。イラク人の反発を力でねじ伏せようとする米軍の暴力的な占領統治は、それに対抗する新たな「テロ」を生み出し、事態を泥沼化させる。その現実を直視することもなく、米国の論理に易々と乗って派兵を行うべきではない。

もともと米国によるイラク攻撃は国際法違反であり、独善的な米国のイラク占領に正当性はない。日韓とも、米国の占領体制を支援するための派兵は、必ず新たな犠牲者を生み出す。
兵士だけでなく、外交官やNGOスタッフ、ジャーナリストなどの民間人も標的となる。再度確認すれば、イラクでもっとも大規模な殺戮を行ってきたのは米国であり、すべてはその事実を認めるところから出発する必要がある。

外交官や民間人が射殺されても、「イラク派兵の方針を変更せず」という日韓の選択は、詰まるところ米国との関係悪化を避けたいという、その一点に集約される。両国とも米国は唯一の同盟国であり、政治、軍事、経済のいずれの面からも、対米関係を外交の基軸としてきた歴史的経緯がある。

「信頼に足る同盟国」でありたいという意味において米国に対する日韓の共通点は多い。
ただ朝鮮半島の安全保障という観点から見れば、米国の存在感は韓国において致命的に大きい。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は、「(イラク派兵は)北朝鮮の核問題など、韓(朝鮮)半島の安保に重大な影響を与える懸念があり、これを解決しなければならないわれわれとしては、いつも以上に篤実な韓米関係が望まれる」(12月3日付け朝鮮日報)と、イラク派兵の最大の根拠は北朝鮮への抑止力としての米国との関係を維持、強化するためであることを明らかにしている。

韓国民には数百万人もの死傷者を出した朝鮮戦争はまだ記憶に生々しい。米国との同盟関係が損なわれた場合、在韓米軍の縮小、撤退などを招き、南北間の軍事的バランスが崩れることを怖れる人は少なくない。その不安感は戦争の体験者ばかりでなく、一般の国民の心にこびりついている。多くの人々は米国のイラク攻撃に「大義」はないと考えているものの、米国の派遣要請を断ることにはためらいがある。
(野中章弘)

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