4年に1度の台湾総統選挙まで、あと90日を切った。ならば、選挙戦もこれからいよいよ本番ですね、言われるかもしれないが、台湾の風土では、すでに終盤戦である。
今日も、クリスマスなど吹き飛ぶほどに、ニュースは選挙一色。毎晩どこかで、数千、数万人規模の大集会が開かれており、観光バスが狭い台湾を縦横に走って、動員される人びとを運ぶ。壮絶な毎日である。

しかし、有権者の関心はあまり高くない。候補者がなにしろ、4年前と同じなのである。与党民進党は現職の正副総統、国民党・親民党の両野党が統一候補を出したものの、前回のそれぞれの候補者を正副に並べ替えただけ。新鮮味にかけることはなはだしい。

さらに、政策論争は皆無。なにしろ双方の最終的な対立点は、台湾の未来、すなわち中国と統一するかどうかにある。あなたは、中国人か、台湾人か、きかれて、いま即座に答えられる人は半分もいないだろう。こんな大きな疑問は、思考の対象にもならないし、また中国のミサイルがにらんでいる限り、表立って争点にすることもできない。選挙戦は、ただただ相手陣営の揚げ足取りと、ゴシップに明け暮れている。

正常な感覚の持ち主は、もうニュースを見るのもいや、投票にも行かない、というふうになる。台湾はいずれの道を歩むにしても、将来はかぎりなく暗い、というのが皆の感想ではなかろうか。こんな根本的な対立を含んだまま、ひとの共同体として成り立っていくとは到底思えないからだ。

先日おこなわれた台湾の高等公務員試験に、とつぜん「台湾語」の問題が登場して、物議をかもした。
「台湾語」というのは通常、ミンナン語、すなわち福建省南部の方言を指す。台湾の人口の七十パーセントは、三百年ほど前から台湾に渡来してきた福建人の子孫で、かれらはミンナン語を母語としている。
ところが、台湾の公用語は北京語になっていて、公の会議や、公的な試験はすべて北京語でおこなわれている。台湾には、母語と国語のねじれ現象があるのである。
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