野中章弘×辺見庸×綿井健陽 対談(1)
作家 辺見庸とアジアプレス 野中章弘、綿井健陽が、
イラク戦争と報道、そして自衛隊派遣の論理を問う
(この対談は2003年12月27日に収録されたものです)

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【辺見 庸 】
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野中

今日はアメリカによるアフガン攻撃、イラク攻撃、そして日本の自衛隊派遣について忌憚のない率直な意見を交わしていきたいと思います。日本は陸上自衛隊の本隊の派遣も決まり、アメリカのイラク攻撃について実質的に参戦する形で加わりました。まず11月下旬にサマワとバグダッドを見てきた綿井君から現地の状況について話してもらえますか。
綿井 
今回は、去年11月16日にバグダッドに入って、その後22日から29日まではサマワで取材していました。サマワからバグダッドに戻った11月29日に、日本大使館員2人が殺害されました。僕はこれまで3ヵ月おきにイラクに行っていて、空爆中の3,4月、それから7、8月。今回また3ヵ月ぶりに行きましたが、一言でいえばどんどん状況は悪化するばかりです。7月までは米兵への襲撃だけだったんですが、僕が取材を終えてヨルダンに出た次の日(8月7日)にヨルダン大使館が爆破されて、そして国連事務所、赤十字、今回もホテルや大使館員が狙われました。イラクの人たちに訊いても、治安は悪くなる一方だし、爆弾テロ事件も起こる一方で、米軍の武装勢力掃討に巻き込まれて死傷していく人も実は多いという。
サマワは僕が取材した11月末までの時点では平穏で、警察や住民に訊いても治安がいいと言ってました。誰に訊いてもサマワに日本の支援が来ることを知っています。しかし、かなり間違った情報が先行しており、企業が電気や水の設備を直してくれたり、コンピューター会社で働けるんじゃないかとか、いろんな幻想と期待と思い込みが渦巻いています。
現地に「ようこそ自衛隊の皆様」という日本人が書いた横断幕がありましたが、サマワの人は「日本の支援=自衛隊」と重ね合わせているわけではないんです。彼らのなかでは日本人=あの経済大国、優れた電化製品を作る人たちというようなイメージで、「軍隊だったら来てほしくない」「できれば民間人に来てほしい」という人が多いです。「自衛隊が歓迎されている」という日本政府の認識と現地の人たちの捉え方は違います。
野中
辺見さんは日本でイラクの状況を見ておられてどういう風に感じていますか。
辺見 綿井さんがおっしゃったような今回のケースと、僕がこれまで直接見たもの、経験したものと重なって連想が膨らんでくるんですね。状況は悪化の一途を辿っているとおっしゃったけれど、まさにそうだろうとわかりますね。とりわけ11月にアイアンハンマー作戦が始まった時に、空爆も攻撃も再開した。
5月1日に事実上の勝利宣言をしたけれど、死者数も相当な数に増え、それ以前よりもひどいことになっているという感じがします。僕の場合はベトナム戦争取材と重なるのですが、いわゆるテロ容疑者あるいは支持者がいると思われる地域全体を壊してしまう、それを捜査令状も逮捕状もないやり方でやっている。このやり方は何十年経っても変わらないと思うんです。同じことはベトナム戦争中だけじゃなく、ソマリアでも繰り返されています。このやり方がいかに住民の反米意識に油を注ぐかはわかりきったことで、誰もが言うように第2のベトナム化、あるいは第2のパレスチナ化だと思います。

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【4月10日の米軍の空爆で足を失った男の子。バグダッドを制圧した米軍だが、その後も市内での空爆を続けている】(バグダッド・サウラ病院・2003年/撮影:綿井健陽)

もうひとつ、サマワが安定していて米軍に対する抵抗勢力が落ち着いているかということと、それを自衛隊派兵のゴーサインの基準にするのは変だと思うんです。サマワが平穏であれどうであれ、派兵そのものの論理に問題があります。3月20日に始まった戦闘で、5月1日までに150人くらいの米兵が殺されているけれど、5月1日以降の犠牲者はその数を越えている。このことが派兵消極論の目安になっているのは非常におかしいと僕は思っている。
非政府系平和団体の調査でも、非戦闘員の死者は1万人を越えていて、負傷者の数はその3倍、5倍とも言われている。むしろそちらが重要で、その数はアイアンハンマー作戦で増えつつある。全く関係のない人間がその場で射殺されるという話も聞くんです。自衛隊の派遣は住民サイドに立ってこの戦闘を停止させに行くわけではなく、むしろアメリカの意を受けて戦闘を合理化して本格的に戦闘行動に参加していくんです。
そのこと自体を問うていかねばいかん、と僕は考えているんです。僕は体調を崩して10月にイラクに行っていないので、そこら辺を綿井さんに修正してもらいたいと思っているんです。
野中
9.11以降、韓国でも日本でも派兵に関する議論が倒錯しているという感があります。アフガニスタンとイラクを見たとき、現地で最大のテロを行っている主体はアメリカなんです。アメリカが最も多くの人を殺しているという事実には反応せず、アメリカがテロに対して英雄的に戦っており、それを日本が支援するのは当然だという風潮になっています。
昨日も新聞を呼んでいたら、「お国のために一生懸命やってきて下さい」と自衛隊員の家族が話しており、自衛隊はお国のために送り出されるんです。仮に犠牲者が出たとしても、国家の英雄として扱われていくでしょう。外交官二人が殺害された時をみても、「国家的な追悼」をすることによって戦争に駆り出すという論理になっているんです。その辺りを綿井君に報告をお願いします。
綿井君はアフガンの時は北部同盟と一緒にカブールに入り、今回も攻撃前の去年3月中旬にバグダッドに入りました。僕が印象的だったのは、4月9日に米軍がバグダッドに入った時、最初に「あなた方は何人のイラク人を殺したのか」と米兵に訊きましたね。
これはなかなかできないことで、普通だったら「How do you feel?」みたいな尋ね方をしてしまうんです。この質問の背景にはイラクの被害の大きさを現場でみてきたことがあると思うんだけど、このイラク戦争の正体を話してくれますか。(続く)


野中章弘×辺見庸×綿井健陽 対談(1)
作家 辺見庸とアジアプレス 野中章弘、綿井健陽が、
イラク戦争と報道、そして自衛隊派遣の論理を問う
(この対談は2003年12月27日に収録されたものです)

20040130_01_01.jpg
【辺見 庸 】
滅びへの道
野中

今日はアメリカによるアフガン攻撃、イラク攻撃、そして日本の自衛隊派遣について忌憚のない率直な意見を交わしていきたいと思います。日本は陸上自衛隊の本隊の派遣も決まり、アメリカのイラク攻撃について実質的に参戦する形で加わりました。まず11月下旬にサマワとバグダッドを見てきた綿井君から現地の状況について話してもらえますか。
綿井 
今回は、去年11月16日にバグダッドに入って、その後22日から29日まではサマワで取材していました。サマワからバグダッドに戻った11月29日に、日本大使館員2人が殺害されました。僕はこれまで3ヵ月おきにイラクに行っていて、空爆中の3,4月、それから7、8月。今回また3ヵ月ぶりに行きましたが、一言でいえばどんどん状況は悪化するばかりです。7月までは米兵への襲撃だけだったんですが、僕が取材を終えてヨルダンに出た次の日(8月7日)にヨルダン大使館が爆破されて、そして国連事務所、赤十字、今回もホテルや大使館員が狙われました。イラクの人たちに訊いても、治安は悪くなる一方だし、爆弾テロ事件も起こる一方で、米軍の武装勢力掃討に巻き込まれて死傷していく人も実は多いという。
サマワは僕が取材した11月末までの時点では平穏で、警察や住民に訊いても治安がいいと言ってました。誰に訊いてもサマワに日本の支援が来ることを知っています。しかし、かなり間違った情報が先行しており、企業が電気や水の設備を直してくれたり、コンピューター会社で働けるんじゃないかとか、いろんな幻想と期待と思い込みが渦巻いています。
現地に「ようこそ自衛隊の皆様」という日本人が書いた横断幕がありましたが、サマワの人は「日本の支援=自衛隊」と重ね合わせているわけではないんです。彼らのなかでは日本人=あの経済大国、優れた電化製品を作る人たちというようなイメージで、「軍隊だったら来てほしくない」「できれば民間人に来てほしい」という人が多いです。「自衛隊が歓迎されている」という日本政府の認識と現地の人たちの捉え方は違います。
野中
辺見さんは日本でイラクの状況を見ておられてどういう風に感じていますか。
辺見 綿井さんがおっしゃったような今回のケースと、僕がこれまで直接見たもの、経験したものと重なって連想が膨らんでくるんですね。状況は悪化の一途を辿っているとおっしゃったけれど、まさにそうだろうとわかりますね。とりわけ11月にアイアンハンマー作戦が始まった時に、空爆も攻撃も再開した。
5月1日に事実上の勝利宣言をしたけれど、死者数も相当な数に増え、それ以前よりもひどいことになっているという感じがします。僕の場合はベトナム戦争取材と重なるのですが、いわゆるテロ容疑者あるいは支持者がいると思われる地域全体を壊してしまう、それを捜査令状も逮捕状もないやり方でやっている。このやり方は何十年経っても変わらないと思うんです。同じことはベトナム戦争中だけじゃなく、ソマリアでも繰り返されています。このやり方がいかに住民の反米意識に油を注ぐかはわかりきったことで、誰もが言うように第2のベトナム化、あるいは第2のパレスチナ化だと思います。

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【4月10日の米軍の空爆で足を失った男の子。バグダッドを制圧した米軍だが、その後も市内での空爆を続けている】(バグダッド・サウラ病院・2003年/撮影:綿井健陽)

もうひとつ、サマワが安定していて米軍に対する抵抗勢力が落ち着いているかということと、それを自衛隊派兵のゴーサインの基準にするのは変だと思うんです。サマワが平穏であれどうであれ、派兵そのものの論理に問題があります。3月20日に始まった戦闘で、5月1日までに150人くらいの米兵が殺されているけれど、5月1日以降の犠牲者はその数を越えている。このことが派兵消極論の目安になっているのは非常におかしいと僕は思っている。
非政府系平和団体の調査でも、非戦闘員の死者は1万人を越えていて、負傷者の数はその3倍、5倍とも言われている。むしろそちらが重要で、その数はアイアンハンマー作戦で増えつつある。全く関係のない人間がその場で射殺されるという話も聞くんです。自衛隊の派遣は住民サイドに立ってこの戦闘を停止させに行くわけではなく、むしろアメリカの意を受けて戦闘を合理化して本格的に戦闘行動に参加していくんです。
そのこと自体を問うていかねばいかん、と僕は考えているんです。僕は体調を崩して10月にイラクに行っていないので、そこら辺を綿井さんに修正してもらいたいと思っているんです。
野中
9.11以降、韓国でも日本でも派兵に関する議論が倒錯しているという感があります。アフガニスタンとイラクを見たとき、現地で最大のテロを行っている主体はアメリカなんです。アメリカが最も多くの人を殺しているという事実には反応せず、アメリカがテロに対して英雄的に戦っており、それを日本が支援するのは当然だという風潮になっています。
昨日も新聞を呼んでいたら、「お国のために一生懸命やってきて下さい」と自衛隊員の家族が話しており、自衛隊はお国のために送り出されるんです。仮に犠牲者が出たとしても、国家の英雄として扱われていくでしょう。外交官二人が殺害された時をみても、「国家的な追悼」をすることによって戦争に駆り出すという論理になっているんです。その辺りを綿井君に報告をお願いします。
綿井君はアフガンの時は北部同盟と一緒にカブールに入り、今回も攻撃前の去年3月中旬にバグダッドに入りました。僕が印象的だったのは、4月9日に米軍がバグダッドに入った時、最初に「あなた方は何人のイラク人を殺したのか」と米兵に訊きましたね。
これはなかなかできないことで、普通だったら「How do you feel?」みたいな尋ね方をしてしまうんです。この質問の背景にはイラクの被害の大きさを現場でみてきたことがあると思うんだけど、このイラク戦争の正体を話してくれますか。(続く)
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