野中章弘×辺見庸×綿井健陽 対談(12)
作家 辺見庸とアジアプレス 野中章弘、綿井健陽が、
イラク戦争と報道、そして自衛隊派遣の論理を問う
(この対談は2003年12月27日に収録されたものです)

【バグダッド市内中心部に入った米軍の戦車と兵士に近寄る市民】(バグダッド・2003年/撮影:綿井健陽)

もうひとつ、今の日本は大事な視点が抜け落ちている。独裁政権なるものとその国の民衆を一緒にして考えているのは最悪の問題です。アメリカや韓国も分けて考えているのに日本は民度が低い。

北朝鮮は少なくとも数十万から百万単位で子ども達が飢えているのに、誰も米を贈ろうとしない。
「古々米さえ贈るな」と石原慎太郎は言う。こんなに非人道的では国際社会から信用されないですよ。これおかしいと思う。

金正日政権と飢えている子ども達は全く関係なく、在日コリアン達も何も関係ない。何故彼らに対して石をぶつけたり、チマチョゴリを着ると蹴飛ばしたり、ひどい仕打ちをするのか。これはマスメディアもだらしなく、国際政治を語る資格がない。実に恥ずかしい動きだと思う。
僕の希望としては最大限、99.9%自国民が独裁政権と戦う。それを言説の力、真実の力、情報の力で支援していくことが必要なので、一義的に軍事的な介入が許されるかどうかという論理は、むしろ短絡してよくないんじゃないかと思いますね。

綿井
僕もいろんな所で話して、学生や年配の方から「実際にどうやって反対の意思を示して行動すればいいのですか」という質問をされるんですよ。「何かしたいんですが、何をすればいいんですか」ということです。その時に僕もはっきりとした答えがなくて、辺見さんがおっしゃるような「ダラダラと抵抗する」というような答えで逃げているんです。

一般の人で全く無関心な人もいれば、何かをしたいという人も必ずいるんです。原寿雄さんも言っていて、ほとんどの人が良心的ですが、その良心の発動をどうすればいいのかわからないのです。

野中
僕はいつも思うんだけど、みんなそういう言い方をするでしょ。「自分はこうしたい」と自分の意見を言ってからなら、答えようもあるけれど、全てを他人に依存して答えを教えてもらうという傾向が強くなっている。さっき辺見さんも言われたように、戦争と平和とどっちがいいと訊いたら、ブッシュ大統領だって「平和がいい」と答えるに決まっている。

皆そう答えるのに、戦争が実際に起きていることが問題なわけです。誰かに訊いても、僕も綿井も、辺見さんだって革命の指導者でも何でもない。僕はそういう質問をされると、「まずあなたが考えて言って下さい。それに対して議論はできるけど、全面的に自分を誰かに委託するのが一番問題なんじゃないか」と思っていつも反発してしまう。
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