実はこの10年間、金正日政権はずっと「闇市場」退治に追われていた。北朝鮮経済は、90年代に入って坂を転がるように転落していった。食糧から衣服まで、あらゆる消費物資を国家が生産から配分まで統制してきたシステムは崩壊し、野菜やタマゴなどを売る農民市場を除いて厳禁されてきた商行為が、ジャンマダンと呼ばれる「闇市場」で横行するようになる。
中央は特権階層を除いて、食糧をはじめとする消費物資をほとんど供給できなくなり、餓死者が発生するに至って、闇市場を黙認せざるをえなくなったのだ。
しかし、人民統制の基本手段である統制経済の復活をもくろむ金正日政権は、度々「闇市場退治」に乗り出す。穀物や工業製品などの禁制品の売買に対しては、罰金や没収という処罰を加えた。
94年に金日成総合大学で行った演説で、金正日は次のよう語ったと言われている。
「市場を放置すると商売人がひとり金儲けし、わが党の階級陣地が危うくなる」
国家統制を離れた商行為が、「鉄の統制」を崩しかねない、という危機意識の表れだと読める。
このような脈絡の中で02年7月に導入されたのが「経済管理改善措置」だった。だが、国家が物資を供給できないにもかかわらず「闇市場」を廃止しため、物流が滞って超インフレを招いた。さらに通貨不信と売り惜しみを加速化させ、人民生活は大混乱に陥った。国際社会からの食糧支援の急減もあって、03年に入ってから一部で90年代後半のように餓死者が発生するに至ったという。
金正日政権が鳴り物入りで導入した新経済政策は完全失敗に帰してしまったのだ。
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