◆海外派兵国家化・戦争国家化を食い止めるためには

吉田
 横須賀の市民運動の原点がよくわかりました。
さて、憲法9条と自衛官の話にもどりますが、いま世論調査でも改憲を容認する割合は高くなっているにもかかわらず、憲法9条は変えない方がいいという意見の方が多いですね。自衛隊の必要性は認めても、憲法9条を変えると日本が海外で戦争をする国になってしまう、米国の起こす戦争に巻き込まれてしまうという懸念から、9条は変えない方がいいというのがいまの日本社会の一般的な考え方ではないでしょうか。

だから、有事法制=戦争法制システムが着々と築かれ、イラクに自衛隊が派兵され、戦争のできる体制づくりが進むこの時代でも、日本社会にはまだバランス感覚が残っているはずだと思うわけです。
確かに自衛隊の存在は違憲です。ただ、小泉政権の進める軍事大国化・海外派兵国家化に対して、平和運動の側が「all or nothing」的に、自衛隊は違憲だという一点ばりで反対するだけでは、この流れを食い止めるのは難しそうなのも現状です。

そこで注目すべきだと思うのは、元防衛庁教育訓練局長で新潟県加茂市長の小池清彦氏や、元郵政相・元防衛政務次官・元自民党国防部会副会長の箕輪登氏のように、保守派の人たちからも自衛隊イラク派遣に反対する声が上がっている点です。

小池市長はイラク特措法の廃案を求める要望書を出し、箕輪氏は「イラク派遣は憲法と自衛隊法に違反している」として派遣差し止めの訴訟を起こしました。どちらも、自衛隊のイラク派遣は専守防衛の基本原則を踏みはずし、海外派兵による戦争への道を開くおそれがあると批判しています。そして憲法9条の大切さを説いています。

平和運動の側はこのような人たちとも手をつないでいくべきではないでしょうか。自衛隊について考え方の違いはあっても、ともかく日本の軍事大国化・海外派兵国家化・戦争国家化を食い止めるという点では共闘できるのではないでしょうか。

それを食い止めたうえで、次は自衛隊の軍縮に向けてどのようなステップが可能か、日米安保の解消に向けてどうすればいいのか、論議してゆくこともできると思うんです。
小泉政権はイラク派兵に続いて、海外出動を自衛隊の本来任務とする海外派遣(派兵)恒久法づくり、集団的自衛権の行使容認(海外で米軍とともに参戦する道を開く)、そして改憲を目指しています。自衛官のいのちを危うくする動きは強まっています。

しかし、いまはまだ憲法9条が持つ歯止めの力はなくなっていません。このことに自衛官やその家族が気づいて、当事者として問題意識を持ち、例えば小池氏や箕輪氏の意見などに耳を傾けることを期待します。

新倉 おっしゃるとおりです。自衛隊違憲論者だけが、海外派兵反対といっているわけではない。そうした現実をしっかり見なくてはならないと思います。こうした新しいうごきを、平和運動が活かすことが出来るかどうか問われています。そのためにも、自衛官の側から考えた、新たな9条論が求められている、というのが私たちの考えです。

自衛官との対話によって、平和運動の側が助けられるというのは、まさにこのことなんです。昨年末に再度おこなった、自衛官とその家族へのアンケートでも、かなり熱い思いを込めて「憲法9条が自衛官を守っていると考えたことがありますか」という設問を入れました。

7通の回答のうち、「考えたことがない」が自衛官1人、家族1人、「そう言われれば、そうかもしれないと思う」が自衛官1人、家族1人、「そのように考えたことがある」が自衛官1人、家族1人、という結果でした。

もっと回答数が多いと確信をもって言えますが、それでもかなりの数の自衛官とその家族が憲法9条の大切さを理解しているのではないかと思うんです。
だけど、自衛官はプロに徹しようとしている人たちですから、個々の思いとは別に「命令があれば行く」と答えるわけです。だから、自衛官がみんな矛盾を持たず、悩まないでいるわけではない、と僕らは考えています。

例えば、イージス護衛艦「きりしま」が横須賀からインド洋に向けて出港する前、艦隊司令が「遣決定前後の状況は、諸君やご家族を少なからず惑わせるものであったことも事実である。しかしながら、その過程や経過がどうであれ、決定されたことに対しては、常に即応するということもまた我々の本分である」と訓示したことは象徴的だと思うんです。

自衛官や家族の皆さんが「この派遣命令は何だ」と思って、悩んだり、迷ったりするのは当然です。自衛隊もそのことを認めないとこの先立ち行かないという状況にあると思います。そうした現状を踏まえて、平和運動の側は対話によって自衛官の思いが社会に向かって表れてくるように努力すべきです。

「自衛官・市民ホットライン」の活動で、「僕らには何もできないかもしれないが、皆さんの悩みを共有して、皆さんのことを社会に伝える役割はできる」と言っているのはそういうことなんです。( 4へ続く >>>

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