新倉 それ以前にも飛鳥田さんは、横浜市にある米軍の鶴見貯油施設に対して、消防法を適用しての立ち入り調査をおこなうなど、かなり意識的にやっていました。戦車の搬送を止めるための法的根拠についても相当時間をかけて準備していたんです。
吉田 この車輌制限令というのは横浜市の条例だったんですか?
新倉 車輌制限令は国の法令ですが、その管理者が横浜市長だったので、管理者権限に基づいて、「重量が規定を超えており、物理的に橋が破壊される危険性」を根拠に発令したわけです。
吉田 自治体の道路管理権に基づくものですね。
新倉 国内法を駆使して安保法体系に風穴を開けたんです。でも、日本政府は横浜市に圧力をかけて止めさせることはできません。車両制限例を解約して合法的に通すことしかできないんです。自治体の主体的な判断とそれを支える国内法。
この二つの組み合わせで、米軍の行動を止めるという非常に見えやすいかたちでした。飛鳥田さんは、自治体が持っている平和力を活かしたわけですね。
林さんは国際法に基づく自治体の独立性を話してくれました。国が戦争をしても、自治体は自治権に基づいて戦争に加担しないことができるんです。
吉田 ジュネーブ条約の「国際的武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書」(追加第1議定書)第59条にある「無防備地域」を自治体でも宣言できるということですね。
この「追加議定書」では、紛争当事国の「適当な当局」が一定の条件を満たす地域を「無防備地域」と宣言すれば、敵国による攻撃は禁止され、違反したら戦争犯罪になると定められています。住民の保護を最優先する国際人道法の精神を体現した規定です。
この議定書を日本はまだ批准していません。日本政府は、「無防備地域宣言ができるのは政府だけ」と解釈していますが、赤十字国際委員会は「無防備地域宣言のできる適当な当局には自治体も含まれる」と解釈しています。自治体でも宣言できるという国際法解釈があるということですね。
新倉 篠田さんは一貫して逗子で住民運動をされてきた立場から、地方自治がどんなに強いものかを話してくれました。戦前、国家と自治体は上下関係だったが、いまはまったく対等の立場なんです。それを支える地方自治法は憲法にも匹敵するとても大事な法律なです。僕らの先生のような人ですね。
この3人の方に来ていただいて、「自治体という土俵でどれだけの論を立てられるか」を具体的に検討してゆきました。( 8へ続く >>> )