吉田 有事3法に関しても、国立市の上原公子市長が政府に対していい質問をしていますね。

新倉 はい。たとえば武力攻撃事態法第15条では、「(政府が)地方公共団体の長等に対し、当該対処措置を実施すべきことを指示する」となっていて、その手続きは「別に法律で定めるところにより」とある。また実施しなかった場合は、政府がやはり「別に法律で定めるところにより」代執行できる、となっている。
そこで、この「別の法律とは何か」と上原市長は訊いています。

ところが、政府は答えられないんですよね。これからつくる法律だとも言ってないし、すでにある法律だとも答えていない。つまり多くのことは決着がついてない。関連7法案へ先送りされたのか、あるいは、もっと致命的な矛盾が隠れているのか。

《憲法に源を持つ個別法の平和力》
吉田 具体的にはどのような法案になっているのですか?
新倉 今国会に提出された有事関連7法案のなかには、「特定公共施設等利用法案」というものがあります。港湾や空港や道路などを管理する自治体が、政府の指示に従わないとき、あるいは緊急の場合、政府は強制力のある指示を出せるように定める、という解説がなされています。

しかし、それはあくまでも、「国民の生命、身体若しくは財産の保護若しくは武力攻撃の排除を図るため特に必要がある場合」であって、港湾管理者である自治体は、その政府の指示によって、住民の生命、財産が守られるかどうかを、判断することは十分可能です。「特定公共施設等利用法案」でも、一元的に自治体の港湾管理権を取り上げることはできていないのです。

有事3法や周辺事態法では港湾の管理権を自治体から奪えません。だから、政府は「総合調整」と称して自治体の管理権を相対化することを狙っているのです。自治体の管理権を否定はできなくても、「総合調整」の名のもとに相対化して、空洞化する目論見でしょう。

周辺事態法と武力攻撃事態法と「特定公共施設等利用法案」を重ねることによって、自治体に「もはやこれまで」と思わせるように仕向けたいわけです。政府としては、自治体が最後まで施設管理権を手放さないことで戦争協力を拒否できる、というままにしておけないのでしょう。

憲法が思いどおりに変えられないのだとしたら、法律を重ねてがんじがらめにしようということです。そこで大事なのは、それぞれの法律を重ねさせないことなんです。

吉田 私も、戦争協力への動員をどのように現場で拒否していくのかという問題について、拒否できるとの視点から取材をしてきました。航空労組連絡会や全日本海員組合、全日本港湾労働組合、横須賀市職員労働組合など、有事法制に反対する労組の人たちに話を聞きました。

みなさん、「戦争には加担しない。戦争の被害者にも、加害者にもなりたくない」と、良心に基づいて有事法制や自衛隊のイラク派兵に反対しつづけています。「有事法制を完成させない。発動させない。戦争協力に従わない」運動を進めているんです。

昨年10月、「陸・海・空・港湾労組20団体」は防衛庁に対して、自衛隊法第103条による「業務従事命令」について不審な点を質しました。交通運輸関係の労働者は、交通運輸関係の事業者(企業)が武力攻撃事態法に基づく「指定公共機関」に指定されたり、自衛隊法第103条に基づく「業務従事命令」に応じたりしたら、戦時の動員体制に組み込まれ、戦争協力を迫られることになります。

「20団体」と防衛庁の質疑応答のなかで、防衛庁防衛局事態対処法制室は、「業務従事命令の対象は事業者であり、労働者は対象になっていない」「労働基準法の適用は排除しないし、労基法に従って従事していただく」と答えています。

つまり、自衛隊法第103条は企業に対しては効力を持つが、労働者にまでは及ばないんです。そこから先は労働基準法の分野になります。だから、労働者に「業務従事命令」に従わなければならない義務はありません。国家が個々の労働者を直接動員する力はこの法律にはない、と当局も認めていることになります。

そこで出てくるのが、企業内の業務命令です。仮に労働者が拒否したり従わなかったりしたら、就業規則に基づく処分をすると企業側は迫ってくるでしょう。政府としては、企業の従業員に対する事実上の強制力として業務命令が機能することを計算に入れているわけです。そうなると、労使間の力関係が問題になってきます。
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