参議院選挙が近づき、最近、台北の我が家にも在外選挙の通知が送られてきた。
現在、海外に長期滞在している日本国民も国政選挙に参加できる。それが在外選挙である。まず居住地の大使館において選挙人名簿に登録しておき、選挙が始まると、大使館に出向いたり、郵送したりして投票する。と言っても、私は一度も参加したことがない。名簿にも登録していない。

案内が来るたびに、夫婦で、登録に行かないといけないねと話をするのであるが、足が動かない。日本国民の権利であり、義務じゃないかと、自らを励ましても、足が出ない。これが郵送ですむことなら、ただちに実行しているだろうが、大使館まで本人が出頭せよと言われると足がすくむ。要は大使館に行きたくないのである。

私だけではないらしい。名簿に登録している人は在外有権者(3か月以上海外在住の人、約60万人)のうち約1割、そして実際に投票した人は前2回の衆院選ともにわずか3パーセントであったらしい。こうした数字を見るとほっとする。ああみんな同じなんだろうなあと。

大使館(台湾では、国交がないため「交流協会」という)には、いかめしいガードマンが立っている。窓口はぴったりと密封されていて、事務所の人とは簡単なこともマイクを通してやりとりし、書類はポケットのような隙間から出し入れする。

私は海外に20年近く住んでいる。幾度か窓口のお世話になったが、いい印象を持ったことがない。頭ではなく、肉体が受け取った印象として、我々が何らかの困難に陥ったときに、ここがその窮地を救ってくれるとは到底思えない(派遣されてくる基層の職員はみなさん熱心に働いておられるが)。

もう10年以上前だが、マニラで同行の友人が拉致され、身ぐるみはがれたことがあった。郊外で倒れているところを市民に助けられ、ホテルに戻ってきた。怪我もしていて、航空券もなくしていた。翌日大使館に電話したが、こんなところは観光にくるところじゃない、さっさと帰りなさいと言われただけで、名前もきいてもらえなかった。

「自己責任」ということらしい。他の知人が遭遇した世界各地での経験をきいても、私の肉体が日頃受けている印象を、いっそう補強してくれるものばかりである。
海外にいると、いっそうはっきりしてくるのだが、日本の政府機関(あるいは野党も含めた国家の持つ機構全体)が、日本国民の生命と財産を守るために機能している、あるいはそういう意志をもって動いているという感想は極めて持ちにくい。

今回のイラク人質事件では、珍しく政府が「不眠不休で」働いてくれたらしい。それが一定真実であったとしても、それは当たり前のことではないか。被害者に恩着せがましく言う筋合いはない。それが仕事なのである。

しかも彼らは、時機の判断に甘さがあったとしても、日本とイラクの友好のために出向いていたのであり、むしろ、日本への「偏見」取り除いてくれる有り難い人材ではなかったか。台湾の友人も、日本の若者の勇気に感銘を受けたと語ってくれている。彼らが、個人ではなく、大企業の社員で金儲けに行っていたら、政府もあのような蔑んだ態度を取るようなことはないのだろう。

新聞に、フランスなら大統領が被害者の家を訪ねていたろうという投書があった。おそらく、台湾でも、総統でなくても、政党の代表や国会議員が慰問に訪れ、家族の声を代弁してくれたに違いない(たとえ売名行為であったとしても)。
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