先月末、東京草風館より「台湾原住民文学選/第四巻/十一民族作品集」が出た。トヨタ財団、台湾政府文化建設委員会および原住民族委員会の支援を得た事業の一環である。ここには台湾原(先)住民をほぼ網羅する十一民族十九人の代表作が日本語でおさめられている。いずれもこの10年ほどの間に登場した作品群で、原住民の青年たちが時代の転換期に遭遇した、戸惑い、挫折、模索、そして希望が生の声で綴られている。
台湾原住民は約40万人、台湾の全人口の2パーセントに満たない。しかし、その隠れた存在感は近年、その数倍、10数倍に肥大化している感がある。
原住民を除けば、台湾の住民はいずれも大陸から渡来した漢民族である。移民・開拓といえば、聞こえはいいが、冷徹に解釈すれば、侵略者である。漢人は、原住民から土地を奪って、この地に居座った。
台湾において展開されている独立・統一の争いは、いわば漢人同士のエゴイスティックな騒動に過ぎない。台湾に漢人を中心にした国家を立ち上げるにしろ、中華帝国の支配下入るにしろ、原住民の了解なしに進めることは、正義と正当性の看板を立てにくいという事情が両陣営ともにある。よって、昨今、台湾政府、そして与野党ともに、原住民政策はまことにまことに手厚いのである。
では、原住民の人たちは、台湾の将来についてどのように考えているのであろうか。その点は、前掲の文学選のなかでも、いくつかの作品が取り上げているので、参照していただきたい。ただ、簡単に言うならば、原住民居住区では、野党の国民党・親民党が圧倒的に強い支持を得ていると言うことはできる。
たとえば、今回の総統選での、民進党・陳水扁への支持を見てみると、原住民の比重が大きい台東県、花蓮県では、それぞれ34.48%、29.80%、また、客家人の比重が多い新竹県、苗栗県でも、35.94%、39.25%の得票率しか得てない。ざっと三分の一。すなわち、台湾で多数を占める福建人の政党である民進党、そしてその政権は、マイノリティから強い反発を受けているということ見方が成り立つ。
それほど、原住民や客家人の、福建人に対する警戒心は強いのである。向こう4年間の陳水扁総統の最大の課題が、いわゆる「族群」の融和にあることは、ここからも明白であろう。
原住民の人たちが、本気で中国との統一を志向しているかどうかという問題は、ここでは保留しておくが、ただ、中には、北京に代表団を送って、中華人民共和国の少数民族自治政策を視察した部族がいたことは書き添えておきたい。
選挙後の騒動は、今も続いている。中正紀念堂に数名の学生が絶食・座り込みをしており、それを支援するという名目で、連戦陣営の支持者が集まって騒いでいる。
しだいに連戦らの構想がみんなに見えてきた。総統との会見も、票の洗い直しも、実際にやる気がないということである。このまま、5月20日まで抗争を続けて、就任式をやらせない積りらしい。
そうすると、中国の「(国内の)混乱を座視しない」という発言がぐっと存在感を増してくるのである。
(04年4月8日)