2004年5月20日の就任式、その演説に対する評価はさまざまである。李登輝率いる台湾聯盟からは中国に妥協していると叩かれ、中国政府からは、「一つの中国原則を認めていない」「陳水扁は全世界の人々に挑戦するつもりか」と手厳しい批判を浴びている。が、市民はなにより無事に就任式が終わってほっとしているところだ。
陳総統は、外の中国政府、内の中国派(自らを中国人と認識し中国との統一を志向する)ならびに台湾派(自らを台湾人と認識し台湾独立を志向する)と、三方に気を使わねばならない。自らの政治生命だけではなく、台湾の安全がかかっているのである。
陳氏は、就任式で胸に国旗をあしらったバッジをつけていた。公称20万人という観衆には国旗の小旗が配られた。自分は中華民国の総統ですよ、中華民国の国旗も国歌も大事にしますよ、だから心配しないでください、というアピールなのである。
中華民国の国旗は、中国国民党の党章がデザイン化されている。すなわち民進党の陳水扁総統は、胸に中国国民党の党章をつけて本意ではない演説を全世界に向かって披露していたわけである。これほど滑稽で悲しいショーはなかろう。折からの雨が、総統の髪や新品の背広に降り注いでいた。
就任式に集まった人たちにとって国旗は、むしろ忌まわしい存在である。みなは雨のなかに打ち捨てて帰った。総統府前の広場の椅子を撤去すると、敷き詰めたように小旗が落ちている。国民党・親民党の支持者は、それを拾い集めて、国旗の山を築き、「それみろ、陳水扁も民進党も国を愛していないじゃないか」と泣き叫んだ。
就任式に対抗して国民党・親民党は抗議集会を開いた。市民は両派に動員された。夕刻、地下鉄の駅では双方が遭遇し、けんかになった。応援グッズをみれば、いずれの派かすぐにわかる。テキを見つけては、互いに罵倒しあうさまがあちこちの駅で展開されたという。
そうした混乱を横目に二期目に入った陳水扁総統は、余裕たっぷりである。四年間の執政の経験がある。人材も豊かになり閣僚も自前で調達できた。三期目はないことから、支持率を気にせず自由に腕がふるえる。任期切れと北京オリンピックが同じ年である。在任中に中国政府が武力を揮うことはなかろうという安心感もある。
みんなの関心は、すでに年末の国会改選に向けた各党の候補者選びに移っている。あと半年、立法院選挙の結果が、台湾の運命を左右することは間違いない。
(04年5月26日)