ビルマとの国境の町メーソットで、思わぬ人物と再会した。彼は、カレン民族解放区の第5管区デボノで会ったウィンチョーというメディック(衛生兵)だった。
デボノへは、メーソットから車で半日、ボートで半日、徒歩で丸1日かかる。そんな辺境に住んでいる人物と街でばったりと出会ったので驚いた。 (写真右: ソー・プコーヘー)
会って最初に話したのが、プコーヘーのことだった。
プコーヘーとは、カレン語で「日本人が来た」という意味だ。プコーが日本人、ヘーが来るという意味だが、プコーの本来の意味は“チビ”である。第2次世界大戦中、カレンの人びとが見た日本兵が皆揃ってチビであったために、こう呼ぶようになったらしい。
実はプコーヘーとは、ウィンチョーの子供の名前である。カレン族の習慣で、客人が来ている時に生まれた子供には、「客人の名前+ヘー(来る)」と名付ける。子どもは、昨年私がデボノで取材中にたまたま生まれたため、ウィンチョーは息子を「ソー・プコーヘー」と名付けた。ソーとは、カレン族の男子につける敬称だ(女性はノー)。
したがって、子供の名を日本語に訳せば、「日本人来た男」といったふうになる。しかし、これは元の意味をたどれば、「チビ来た男」になる。当初私は冗談だと思っていた。なにしろ、これを聞いた村の助産婦も、アゴがはずれるほど大笑いしていたのだ。きっといじめられるにちがいないと、いくらかの責任を感じていた。
しかし、話を聞けば、今も毎日デボノの村人から「プコーヘー(チビ来た男)」と呼ばれ、可愛がられているらしい。
名付けのきっかけとなった者としては、ひと安心だ。ウィンチョーは、1歳になったプコーヘーの写真を見せてくれた。私はまだ独身だが、ついつい自分の我が子のように眺め入った。
いつかまた成長したプコーヘーに会いに行きたい。
(04年8月上旬)