午後5時ごろ、事務所に一本の電話がかかってくる。国連ビル(東京・青山)前で、7月から難民認定を求めて座り込みの抗議をつづけているクルド人たちの支援者からだった。
「すぐに来てもらえませんか。彼らが強制的に排除されそうなんです。『午後7時までにすべて撤去しろ』と警備員が通告していったんです。
いま、警備員がぞろぞろと降りてきています。取材してください」
いつもより状況が緊迫しているということが声の調子から伝わってくる。残っていた事務所での仕事を急いで終えて、現場へ向かった。到着したのは午後6時半。国連ビル前の広場を囲むように人だかりができていた。人をかきわけて中へ入る。
「いま大変だったんですよ。カザンキランさんたちがガソリンをかぶって自殺しようとしたんです。みんなで必死にとめました」
支援者が状況を説明してくれる。確かに、ガソリンのにおいがぷーんと鼻をつく。救急車、消防車までが出動していた。ホースを伸ばす消防隊員の姿がみえる。20名ほどの警察官がロープで広場を囲い、野次馬を押し出している。
すぐにアジアプレスの代表、野中に連絡。思っていた以上に緊迫していることを伝え、現場へ来るよう依頼。そして、撮影を始める。人だかりへと近づいてみると、福島瑞穂社民党党首の姿がみえた。
弁護士は、「UNHCRと交渉してくるから待っていてください。それまでは何もしないでください」とカザンキランさんたちを説得し、国連ビルの中へ。
午後7時半ごろ、野中とともにAPN編集部の中平が現場に到着。少し言葉を交わす。戻ってきた弁護士が、カザンキランさんたちも含めて、もう一度 UNHCRへ交渉にいくことになったことを伝える。ガソリンまみれになった身体を、近くの水道の水で洗い流すカザンキランさんとドーガンさん。服を着替えたあと、弁護士と一緒に国連ビルの中へ。彼らを待っている間、福島瑞穂にインタビュー。現場の一部始終をみていたという支援者の男性にも話を聞く。
午後8時半ごろ、右手を掲げピースマークを指でかたどりながら、カザンキランさんたちが戻ってきた。弁護士が交渉の結果の報告をする。
「28日にUNHCRが改めて話し合いの場を設けてくれることになりました。そのことを受けて、カザンキランさんたちは72日間続けてきた座り込みを中止することを受け入れました。支援者のみなさん、安心して今日は解散してください。」
拍手と歓声。カメラの列に加わり撮影する。支援者と家族は抱き合って喜びあう。ほっとして時計をみると午後9時をすぎたところだった。
(9月22日)