8月31日夜に襲撃されたカトマンズ市内にあるジャマ・モスク。1日朝も周辺には暴徒が群れていた。

8月31日午後8時に国営のネパールテレビのニュースで放送された映像が、首都カトマンズで大きな暴動を引き起こした。それは12人の男性の遺体がうつぶせに倒れている映像だった。全員が両腕を頭上に掲げて横たわり、白いTシャツの背中には血痕が散っていた。

ほとんどが首を後ろから撃たれて死亡していることが明らかだった。それぞれの顔は見えないものの、ネパール政府はこの映像が、20日にイラクの武装グループ「アンサル・アル・スンナ軍」に拉致されていたネパール人12人のものであると確認した。

ネパールテレビはこのニュースのなかで、被害者の一人で、カトマンズの南約20キロのところにあるレレ村出身のラムシュ・カドカさんの家族が、知らせを聞いて号泣している様子を伝えた。カドカさんの母親は次男の死のニュースを聞いて、ショックのあまり気を失っていた。

この光景は、現在、100万人に達するとも言われている、海外に出稼ぎにいっているネパール人の家族に衝撃を与えただけでなく、大勢の国民の怒りを煽った。このニュースが放送された直後、怒った市民はカトマンズ市内にあるモスクに集まり、襲撃したのである。暴動は翌1日になるとさらに市内全体に広がった。

イスラム国の航空会社や出稼ぎ者を海外に送る人材派遣会社ばかりでなく、大手メディア2社が襲撃されて、1990年の民主化以降、最悪の事態に発展した。国民の約8割がヒンドゥー教徒であるネパールで、イスラム教徒は少数派だが、隣国インドと異なり、これまでに、異宗教の人たちが大きな争いを起こすことはなかった。特定の宗教をターゲットにした暴動が起こったのは、これが初めてである。
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