北朝鮮と行き交うモノと人
鴨緑江の鉄橋を走る丹東発新義州行きの列車は、親戚訪問や個人貿易している人々でぎっしり詰まっていた。人とモノを運ぶトラックやワゴン車なども往来は頻繁で、私が見た限り、10分間に20台ほどが往き来していた。
しかし、奇妙なことに気がついた。北朝鮮に向かうほとんどの大型トラックには、物が溢れるほど積まれているのに、北朝鮮から中国側に入ってくるトラックは空っぽのものが多いのだ。北朝鮮に向かう車の荷は梱包されていて、中身が何なのかはっきり分からない。
丹東で10年間、北朝鮮と貿易をしている中国人の男性によると、北朝鮮から輸入されてくるのは、各種水産物や鉱物、漢方薬の材料が多い。逆に中国から持って行くものは、中古テレビ、冷蔵庫、化粧品、衣類、建築資材などが大半を占めている。北朝鮮の貿易業者とは、中国から持ち込んだ携帯電話を密かに使うか、ファックスで連絡を取りあっているという。
数ヶ月前に新義州を通って北朝鮮に行ってきたばかりで、これから北朝鮮に居住しようとしている韓国系アメリカ人に会った。彼は新義州の状況について次のように語ってくれた。
「新義州の人たちは他の地域と比べると、中国が近いために外部情報も多くて、いろいろ知っている。親戚訪問で訪れる中国人も多いから、物不足もそれほど深刻ではない。日本のテレビが伝えているような、相変わらず飢えに苦しみ、体制の言うことは何でも聞く機械のような異常な人々、ではない。北朝鮮は少しずつだが変っている。10年後は目に見える成長があると思う」
丹東を発つ前日の夜、新義州を見渡せる高台の錦江山公園にのぼってみた。ネオンが輝く丹東と対照的に、新義州は街灯らしき灯りがいくつか見えるだけだった。そこで今何が起きているのだろう。走っていって自分の目で確かめたいが、今の朝鮮半島の現状はそれを許してくれない。韓国人である私にとって、北朝鮮はもう一つの祖国だ。その国が今どんな状況に置かれているのか冷静に見つめたいという気持ちが、ここに来てもっと強くなった。