だが実際にはそのような計画はなく、住民の間での噂として広まっているだけだ。
サマワの人たちが口にする「日本の企業」の話は、昨年以来何度も聞いている。初めてサマワを訪れた昨年11月下旬、ちょうど日本政府からの調査団がサマワに入っていた時期だったが、そのころすでに街の話題は「日本の企業」で持ちきりだった
(その詳細は月刊「論座」04年2月号に掲載)。
「トヨタが来るのか、ソニーが来るのか?」
「私たちが働くことはできますか?」
と、多くの住民から質問を受けた。それから半年が経過し、自衛隊が活動を始めたいまもなお、地元の人々の「日本企業」信仰は根強い。自衛隊が現時点で生み出している現地の雇用はごくわずかなものでしかないが、日本企業がサマワの失業者を大量に雇用してくれると人々は依然として夢想している。
だが、そうした根深い幻想や誤解を解くだけの成果を、サマワに駐留する自衛隊が上げることはとてもできない。
サマワ市内の道路わきにある自衛隊の活動を紹介する掲示板には、イラクの国旗と日の丸の旗のイラストの間に、「イラクの未来のために」というキャッチフレーズの文字だけが、かろうじて残っていた。しかし、掲示板には、シーア派指導者の政治声明のチラシが何枚も貼られている。
地元テレビや新聞を通じても、自衛隊はサマワでの活動を説明しているが、効果はほとんど見られない。「こんな活動をしている」という宣伝はできても、具体的な将来の計画を示せないために、むしろ過大な要求や期待を一層抱かせている。実際に自衛隊の活動を目にする機会が少ないなか、住民の自衛隊への思いは早くもその先の「自衛隊後」に飛んでしまっていた。
これまでサマワ宿営地近くへの迫撃砲攻撃(4月)、オランダ軍兵士殺害(5月)、警察署を狙った爆弾攻撃(6月)など、自衛隊の活動が本格化して以降、治安の悪化を物語る事件が相次いだ。しかし、自衛隊が駐留して以降、確実に悪化しているサマワの治安について、多くの人は認めようとしない。それもまた「自衛隊後」をにらんでなのか、自衛隊の駐留との関係をことさらに否定する。
サマワ警察署のマハディ広報官は、私の取材に対して「サマワが危険などという間違った情報を日本に伝えるのはやめてほしい。自衛隊を恐がらせないでほしい。外部からサマワに入ってくる一部の勢力の問題だ。われわれ警察だけで十分に対応できる。そして自衛隊を守るのも我々警察の役目だ」とサマワの「安全性」をしきりに強調していた。
朝日新聞とサマワの地元紙「アルサマワ」が、6月中旬に共同で行った世論調査結果によると、サマワ市民の85%が「自衛隊の駐留に賛成」という(6月29日付掲載)。
実際、私がサマワの街で市民に話を聞いてみても、自衛隊の活動に対する要求や失望感までは口にしても、自衛隊の撤退を求める人や非難をする人はいなかった。
日本人一般に対しても、これまで同様多くの人が「友人」と見てくれている。だが、地元の人たちが自衛隊の駐留に「賛成」「歓迎」する背景には、その先の「日本企業」進出の期待を織り込んだ先行評価があり、そこには地元の利益計算がしたたかに渦巻いている点を差し引かなければならないだろう。
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