サマワで活動する陸上自衛隊(撮影:野中章弘)

開示文書が表す「イラクに行きたくない」とは言えない空気
開示されたのは、結果が記入されていない、「イラク派遣希望調査」や「イラク派遣に伴うアンケート」などの用紙のみである。

しかし、これらの用紙は筆者の知るかぎりでは新聞や雑誌、テレビなどでも報じられていない。用紙だけからでもさまざまな問題点が見えてくる。

用紙は部隊ごとに異なっているが、「熱望する」「希望する」「命令であれば行く」「希望しない」といった選択肢が並んでいる点はほぼ共通している。

しかし、なかには「希望しない」や「絶対行きたくない」や「参加できない」といった項目を選択した場合、その理由を事細かに分けて選ばされたり、書かされたりするようになっているものもある。

さらには、「命令であっても行かない」という選択肢を選んだ自衛官に対して、「任務又は特技の編成上、命令で『行け!』と言われた場合、あなたは自衛隊を退職しますか?」と、まるで踏み絵を迫るように「退職する」「退職しない」のどちらかを選ばせる、極端なものまである。

しかし、これはあまりにも自衛官の人権と生活を無視したやり方ではないだろうか。誰でもこんな選択肢を突きつけられれば、有無を言わさず派遣させるという圧力を感じないではいられない。
情報開示されたこれらの文書を見ると、イラク派遣に関して自衛官たちにプレッシャーがかかり、「イラクに行きたくない」とは言いづらい、言えない空気が自衛隊内を覆っているのは確かなようだ。

あるイラク派遣隊員の家族から、「派遣隊員に選ばれた本人が『隊内は、イラクに行くのは嫌だと言える雰囲気ではない』とこぼしていました」と聞かされたことがある。やはり、そのような雰囲気があるのは間違いなかろう。

12月10日に政府が閣議決定した新たな「防衛計画の大綱」には、これまで自衛隊の付随的任務だった海外派遣を本来任務に格上げするための自衛隊法改定が盛り込まれた。イラク派遣をめぐって、「退職する」か「退職しない」かまで迫るような派遣希望調査が、一部の部隊でおこなわれていることは、海外派遣(事実上の海外派兵)命令に強制力を持たせるための布石としての意味も持ってくるだろう。
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