気になるのは、運動団体やメディアの中に「朝貨排斥」的傾向が出ていることだ。パチンコをやめよう、北朝鮮産アサリは飢餓輸出だから買うなという暴論も散見する。パチンコ業者のおそらく八割以上は北朝鮮とも総連とも関わりはない。北朝鮮でアサリを掘っている海辺の住人は、アサリとカロリー源の穀物を交換して手に入れているのである。八つ当たり以外の何ものでもない。
現実の貿易統計を見てみよう。日朝貿易は02年から大きく減少し、03年度の対北朝鮮貿易実績は、1位は中国で約10億2354万ドル、2位は韓国(厳密には域内交易扱い)で、7億2442万ドル。三番目の日本は、総額2億7800万ドル(いずれも輸出入計、韓国貿易センター発表値)。
中国は前年比38.7%の大幅増の一方で、日本は3割の大幅減少だ。北朝鮮貿易額に占める日本のシェアも01年が21%、02年が16.3%だったのが、03年は10%強に下がった。貿易取引量は韓国、中国の2か国で約7割を占めており、日本は他に北朝鮮への送金が40億円ほどあるが、それを含めても一割強にしかならない。さらに04年の速報値を見ると、1-9月の実績は、輸出が7.5%、輸入が6.8%減少しており(日本貿易振興機構発表)、日朝貿易の萎縮と、中国の増進でシェアはさらに下がるのは必至だ。
トップの中国の04年のシェアは50%ほどになり、金正日政権の生殺与奪の権を持っていると言っていい。一方日本は、貿易・送金の面で、既に北朝鮮に対する影響力はたいしたものでなくなっている。
これらの数字を見て常識的に考えられるのは、日本単独の制裁では金正日政権に政策を変更させるパワーはない、という冷徹な事実だ。対北朝鮮政策の優先順位が異なるため、中国、韓国が経済制裁に同調する可能性はゼロと言っていい。
国際関係の常識で言うと、経済制裁とは戦争に次ぐほどの極めて重いペナルティである。日本による経済制裁の発動は、当然北朝鮮の反発を呼び、あらゆる協議が即時中断されることを意味する。国交正常化をゴールと定めて拉致を自白謝罪した金正日政権とすれば、そのゴールに近づけなくなることは大きな打撃だ。
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