経済制裁は効果があるか
拉致問題に対する北朝鮮の誠意なき対応への苛立ちから経済制裁の発動を求める声は高まるばかり。しかし、北朝鮮産のアサリを買わないことが、ほんとうに問題の解決につながるのだろうか。データとともに冷静に分析する第3回目。
石丸次郎 拉致問題を考える1回へ
どうすれば拉致問題の真相究明と解決は図れるのだろう。残念ながら、事態を動かす決定的で即効性のある妙案は誰も示すことができていないのが現状だ。自民党内や拉致議連からは、経済制裁すべしとの声が急速に高まっている。しかし、寡聞にも、経済制裁が解決のために本当に有効だということを論理的に説明しているのを私は聞いたことがない。
被害者家族が、金正日政権の不誠実な対応に怒り、一日も早い解決を願い、そのためには圧力行使をしてでも、と考える気持ちは察するに余りある。しかし、政治家はその思いを引き取り、本当に解決に有効な外交政策を立案しなければならない。後述するが、結論的に言えば経済制裁は、データを見ても拉致問題解決に有効な圧力になるとはとても言えないのだ。
拉致議連の平沼赳夫会長は経済制裁について、昨年11月16日に開かれた拉致議連総会後の記者会見で、「外交は対話も必要だが、(拉致被害者の)ご家族らのことを思うと即座にやるべきだ。(中略)断固やる。閣議決定のため議連で力を合わせて100パーセント実現できるよう努力したい」と述べている(11/16共同)。
また、自民党の安倍晋三幹事長代理は14日、テレビ朝日の報道番組で、「北朝鮮は日本に(年間)200億円以上、輸出している。これは北朝鮮にとって2 兆円ぐらいに感じる額だ。それを止められるのは大変な打撃になり、その意味で(経済制裁は)大変な効果がある」と述べた。また、一部の学者や評論家が経済制裁の効果を疑問視していると指摘し、「効果があるのに効果がないと言っている人は、どういう人たちなのかなと疑問に思う」と批判した(毎日 11/14)。
安倍氏は、200億円を「2兆円ぐらいに感じる額」だと根拠なく勝手に解釈して、効果があると断じているが、経済制裁の有効性について論理的な説明にまったくなっていない。
このように、政治家が一見「勇ましい」発言だけを繰り返すのは、無責任な人気取りか単なる「報復論」に過ぎないと私には映る。
拉致被害者家族の怒り、悲しみを表現しようとするとき、メディアはそれが悪しきナショナリズムを刺激したり煽ったりしないよう取り扱いに注意が必要だ。政治家は、冷静で合理的な政策立案をしなければならない。
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