現在イラク北部とクルド自治区を取材中の玉本が、イラク国内の日常の息吹を日誌と写真で伝える集中連載
5月4日、午前9時半、アルビルで自爆事件が起きた。鳴り響く救急車のサイレン、警官の怒号。現場は騒然としていた。自爆の現場に近づくと、生臭い血の匂いが漂っている。
(写真右:消防車の放水がかき流した血が、地面に血だまりをつくっていた。(アルビル市内・5月4日午前9時30分))死者47人、負傷者100人以上。(5月4日現在)クルド民主党(KDP)の事務所での警察官採用予備面接に集まった若者を狙った自爆と思われる。
救急車のあとを追い、地元の記者の車で病院に向かう。震える手でハンドルを握る彼の目からは涙がこぼれ落ちてとまらない。病院には、次々と負傷者が運ばれていた。
「大きな音。その瞬間、自分のからだが叩きつけられるように吹き飛んだ。目を開けると、煙のなかに、肉片がちらばっていた」炸裂した爆弾の破片を全身に浴びた男性は、喉元から振り絞るような声で、爆発の瞬間の様子を語った。
北部では、先月以降、KDP事務所や幹部があいついで狙われており、今後、さらに攻撃が激化する可能性もある。
「自爆しているのはアラブ人。自爆による無差別殺戮を"聖戦"と思い込んでいるのです」
KDP幹部のアミン・ムスタファ氏は述べた。
イラクで連日発生する自爆事件。「ニュース」としては、もう珍しくもなんともない。しかし、人数でしか語られない犠牲者の、それぞれに名前があり、家族があり、未来があった。「聖戦」を信じる自爆者は、子供まで巻き添えにして「天国に行ける」と思っているのだろうか。なにが、彼らを駆り立てているのか。
同日午後、イスラム過激組織アンサール・スンナが、犯行声明をだした。同組織はクルド人を「米軍の協力者」として攻撃対象にしている。今後、クルド人がアラブ人への不信感をよりつのらせるのは間違いない。
「アラブ人は絶対に信用しない」
負傷した青年の父親は言った。
新しいイラク政府がめざす「民族協調」の理念は、現実からはさらに遠のきつつある。
病院に次々に運ばれる負傷者。
(アルビル市内・4日午前10時)
病院に駆けつけた犠牲者の家族。
死亡の知らせに泣き崩れた。
(アルビル市内・4日午後1時)