2 《保守派の面々》

こうして保守派4人と改革派3人、両派の中間に身を置くラフサンジャニ師の計8人による公式選挙活動が25日、スタートした。
保守派4人は以下の通りである。マフムード・アフマディネジャード現テヘラン市長(49)、アリ・ラリジャーニ前国営放送総裁(48)、モフセン・レザイ公益評議会書記、兼革命防衛隊司令官(51)、最後にモハンマドバーケル・カリバフ前警察長官(44)である。

保守派内で設立された調整委員会はこれまで再三にわたり、4人のなかから統一候補を擁立しようと試みていた。なぜなら、この4人のなかから大統領が選ばれ、改革派からの大統領誕生を阻止するのが至上命題だからだ。保守派はバスィジ(動員予備軍、つまり保守派傘下の民兵組織)や革命防衛軍、宗教諸財団、またそれらが運営する企業などの関係者を含め、全人口の1割にあたる約700万人の組織票を有していると言われる。4人もの候補が乱立しては、せっかくの組織票が意味をなさない。

ところが、保守4人組の足並みはまったく揃わず、統一候補擁立は難航した。4人とも革命防衛隊出身で、年齢も近く、多感な20代前後でイラン革命を経験しているなどの共通点からか、「あいつが降りないなら俺も降りない」という意地の張り合いが多々見受けられた。選挙へのスタンス、政策なども微妙に違っており、アフマディネジャード氏は故ホメイニ師の再来を思わせる原理主義的理想を掲げ、ラリジャーニ氏はイスラム回帰に重点を置きながらも幾分ソフトなイメージを、レザイ氏は現職が革命防衛隊司令官だけありタカ派的発言を好み、カリバフ氏は自らを『実践主義者』であり『改革をもたらす保守』と形容するなど政策面では他の3者よりリベラルな発言が目立った。

保守派が統一候補への合意を見ないまま、正式立候補届出期間がはじまる5月10日を迎えた。そこへ満を辞して現れたのがラフサンジャニ師であった。彼はそれまで各保守陣営から再三にわたり立候補を乞われながら、決断を先延ばしにしてきた。一方で国民には選挙への参加を強く促し、保守派各候補にはすみやかに統一候補を打ち立てるよう要請してきた。

ラフサンジャニ師は1989年から97年まで2期大統領を務め、イラクとの8年戦争により疲弊した国内経済の建て直しに力を注いだ。しかし政治的民主化には関心が薄く、そのうえ一族そろって大金持ちで、収賄の噂も絶えない。そのため2000年の国会選挙ではテヘラン区から出馬したものの最下位ぎりぎりで当選を果たしている。当選結果に不満だったのかすぐに国会議員を辞職、公益評議会議長(最高指導者により任免)という要職に就任した。

公益評議会は、国会で通った法案に護憲評議会が拒否権を発動し、国会との話し合いが紛糾した際、両者の調停役を果たすという役割を担っている。最高指導者の意思を色濃く反映した護憲評議会と、国民の意思を反映した行政府および立法府、この両者を調停し、ときに超越する立場にある公益評議会の議長職であるラフサンジャニ師は、明らかに大統領を凌ぐ権力を保持しており、敢えて再び大統領の座に就く必要はないように思われる。その彼がいよいよ立候補を表明した。

「次の選挙では勝者は圧倒的な得票数で当選しなければならない」

こうした発言から、自身が立候補するのであれば、高い投票率と圧倒的な得票数で当選を果たしたいという意向が伺える。先の国会選挙での苦い記憶からかもしれない。国民の信託を負った大統領として、欧米を相手に大きな駆け引きに乗り出すのでは、との憶測も見られた。
次のページ...

★新着記事