最終回。ボジョー司令官とともに。
2001年1月1日。
「新世紀」の朝を迎えた。凍えるような寒さだった夜明けも、回りが明るくなるにつれ次第に和んできた。腕時計の針が8時を指す頃には、身体を動かすことのできる暖かさになってきた。

司令部の中央にある広場の隅には、人が集まっているようだ。たき火を囲んで人の輪ができている。声を張り上げて話しているのはレゲーじいさんだ。タダダー村のはずれに住んでいる元村長さん。年齢は教えてくれない。
彼の話す流ちょうな英語は、短波ラジオと書物から学んだという。得意げに話しかけてきた。

050714_01(写真:新年の戦闘から戻ってきた日。戦闘の様子を思い出しているのか、或いは失った部下のことを考えているのか、ずっとふさぎ込んでいた。)

「昨日の夜、ランチャー(迫撃砲)の音聞いたか」
「2発、3発聞いたよ」
「ボジョーの率いるカレン軍とナワタ(ビルマ)軍がやり合ったんだ」
このレゲーじいさん、日本人を懐かしく思うのか、いろいろと世話をやいてくれる。今朝は餅米を炊いて、大ぶりのおこわのおにぎりを作ってきてくれた。
カレンの人は、カレン語でメトピーというそのおこわに、サトウキビからつくったタカスィーという甘い粉をつけて食べる。
「うまい、うまい」と喜ぶ私に、60年前の昔話をしてくれる。

「おまえさんは身体が大きいな。昔このあたりに来たプコー(日本人=カレン語で「短足」の意)は、みんな小さかったよ。でも、プコーは勇敢だったなあ。それでもなあ、プコーは、村の人をつかまえては殴ったり、ひっぱたり、ずいぶんとひどいこともしたんだよ。だから我々は英軍と一緒に日本軍相手に必死で闘ったぞ」

「私はプコーというより、タコー(長足)だろ。だから逆に前線に行くのが怖い臆病者なんだ」
そんなレゲーじいさん、なにを思ったのか、急に声を荒げて聞いてきた。
「『きさま!』『きおつけ!』『だまれ!』『ばか!』、これはどういう意味なんだ?」
1月2日深夜、寝床でザワザワと人の声を聞いた。なんだか遠いところで話し声がこだましている感じだ。ボジョーが帰ってきたのだろうか。あるいは、村の人がやって来たのだろうか。夢心地で考えているうちに、そのざわめきは止んだ。寒さと眠気のため確認のため起きあがることできない。囲炉裏のすぐ横で、猫と一緒に丸くなってふたたび寝入ってしまった。

朝6時過ぎ、私の寝ている小屋に人の出入りが多くなってきた。寒さをこらえて起き出す。小用を足しに表に出てみると、ボジョーがたき火に当たっている姿が目に入った。やっぱり昨日の夜、帰ってきたのだ。それにしても夜通し歩きっぱなしだったのだろうか。
彼は、やはりビルマ軍の基地を攻撃してきた。1月1日の交戦の様子を聞いてみた。
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