玉本英子が取材現場から送る日誌。現在イラクで取材中
2005年12月26日 大学生たち
サラハディン大学(アルビル・クルド自治区)の学生会主催のパーティを取材した。
パーティといっても、キャンパスで行われるクイズや歌などの単なる「お楽しみ会」(飲食ナシ)。コンパやサークルなどで遊びつくしている日本の大学生たちには及びもしないが、娯楽の少ないアルビルでは、ほぼ毎月行われる。
かれらにとって、こうしたパーティが大きな楽しみのひとつなのだ。寒い冬空の下、大学生たちはクルド民謡の音楽にあわせ踊りまくる。
湾岸戦争後、クルド自治区ができてから、ここは、イラクとは別の世界を歩んできた部分がある。かれらの国籍は紛れもなくイラク。だが、自治区の若い世代のクルド人には、自分がイラク人という意識はほとんどなく、誰もが「自分はクルド人」と答える。
サラハディン大の女子学生たちの多くは今のイラクの状況などにはあまり興味はないようで、お化粧や、ボーイフレンドと校内のベンチに座っておしゃべりすることに夢中のようだった。(しかし日本のように男性と深いおつきあいをすることは、まずない)
2年前に訪れた隣町のモスル大学。同じイラクでも、ここの学生たちの雰囲気はまったく違った。私は学生たちに取り囲まれ、詰め寄られた。
「世界はなぜイラクを踏みにじるのか。私たちの気持ちをわかってほしい」
遠くを見るといくつもの黒煙が立ち上っている。上空を米軍のヘリコプターが旋回していた。女子学生のひとりが指さしながら言った。
「米軍の爆弾よ。破壊のない日はないの」
当時モスルでは、米軍は軍事作戦を続け、武装勢力の外国人襲撃がはじまっていた。
華やかなサラハディン大の女子学生の姿は、クルド自治区に平和が戻りつつあるしるし、といえるだろう。
しかし、そこから車で1時間先のモスルでは、いまも自爆攻撃や米軍や治安部隊と武装勢力との戦闘が続く。あの時の、モスル大の女子学生の瞳が忘れられない。
サラハディン大学の女子学生。多くがイスラム教徒だが、スカーフを
覆って髪を隠す学生もいれば、髪を隠さない学生も。地方によって
「隠し度」は違う。モスル大学はスカーフで髪を覆う女子学生が多か
った。