玉本英子が取材現場から送る日誌。
2006年2月16日 <夕飯によばれる>
今日、ドホーク市内の友人宅で、夕飯によばれた。
安全といわれる地区にあったため、行くことにした。
ジャフェルさん(50)一家は、妻と9人の子どもたち、その嫁の合計13人家族だ。
イラクの一部の家庭では、男性が先に食事をし、その残りを女性たちが食べるという習慣が残っている。私はお客さんということで、男性たちと一緒に食べることになった。
【写真:お箸を見せると、誰もが挑戦したくなるようだ。
左のお皿の料理が「トルシック」】
今日のメイン料理は、ひき肉を詰めた団子や肉を、トマトソースで煮た「トルシック」だ。肉のうまみがスープいっぱいにしみこんで、いくらでも食べられる。
女性は太ったほうがいいのよ、と妻のヘイベットさん(45)は、私のお皿に羊肉のかたまりをどんどん入れていった。肉はやわらかく、口の中でほろほろと溶ける。私は山盛り3杯を平らげてしまった。
男性たちの食事が終わり、部屋を出たあと、女性たちが食卓に着いた。男性たちは女性たちの分を十分に残していたが、家族なのだから男女一緒に食べてもいいのでは、と思ってしまう。
「昔からそうだから、特に何も思わないわ」女性たちは、あっさりとした表情で言った。
「トルシック」をつくったのは、妻のヘイベットさんと、次男の嫁カファヤさん(22)。
カファヤさんは、家の外では黒いスカーフでぴっちり髪をおおうが、家の中では、明るい栗色の髪を揺らしていた。
彼女は3ヶ月前、隣町モスルからこの家に嫁いで来た。彼女の父親が結婚を決めたが、同い年の夫とは話も合い、楽しい新婚生活をおくっているという。
しかし、心配なのは、いまもモスルに暮らす実家の家族。モスルはいまも自爆攻撃などで、連日、死傷者が出ている。
「将来生まれる、私の子どもには戦争を経験させたくない」カファヤさんは力を込めて、そう言った。
イラクで治安が悪化してから、ご飯を食べに家へおいで、と言われても断ることが多くなった。外国人が出入りすることで、スパイと間違われ、武装勢力などからの攻撃の対象にされるかもしれないからだ。
2年前、バグダッドの家庭でごちそうになった「ドルマ」(ピーマンに米と肉を詰めて煮込んだ料理)の味がなつかしい。