日本の姿勢を問う
安全保障理事会への付託によって、これまでアメリカが独断で世界に対して圧力をかけてきたイランへの経済制裁を、今度は国際的な取り決めとして実行できるようになる。イランの対応次第では、軍事攻撃もいずれ検討されるかもしれない。その前にアメリカかイスラエルが単独でイランを爆撃する可能性も十分にある。

「アメリカの攻撃?怖くないよ。攻められたらもちろん戦うよ」
体制擁護派ではない普通の若者が、当たり前のようにこう答える。どんな理由であれ戦争に行くのはごめんだ、という若者ももちろんいるが、少数派のようである。30歳のあるタクシードライバーは、欧米への不信感を滲ませながら次のように語る。
「国内の弾圧や革命に巻き込まれるのはごめんだけど、イラン人のことなんか何も知らないアメリカに攻められて、統治されるのはごめんだね。そんなときは戦うよ」

情報統制の厳しいイランだが、こと核問題に関しては、イラン人は世界中のどこよりも正しい情報をメディアから得ていると言えるかもしれない。イラン政府が核兵器保有を意図しているかはイラン人の間でも意見が分かれるが、少なくとも現段階では核エネルギーが焦点である。その権利を奪うためにアメリカが攻めてくるというのであれば、戦わないわけにはいかない。

イランの若者の多くが、アメリカの音楽、映画、ファッション、そして自由にあこがれ、現体制の窮屈さに辟易としている。だからといって、ひとたびアメリカが爆撃を始めたら、国民がこぞって体制転覆のために蜂起するなどと、アメリカが誤解していないことを祈るばかりだ。

一方日本は、イラン核問題の安保理付託に際し、新聞各紙は社説などで、「最悪の事態(イラン空爆のことか、それともイランによる原油輸出停止のことか)を招かないよう、イランは自重すべきだ」とアメリカの恫喝そのままの論法で、本末転倒なイラン批判を展開している。

いつだったか、川口順子外相がハタミ政権のハラジ外相と会談した際、こんなやりとりがあった。川口外相がIAEAの非難決議をイランは素直に受け入れるべきだと忠告したのに対し、ハラジ外相は「これは国のプライドの問題なのです」と政治家らしからぬ返答をしたのだ。ひょっとしたらハラジ外相は、日本人なら理解してくれるかもしれないと思って、こんな言葉を吐いたのではないか。そのときふと、そう思った。

先に述べたモサッデク政権による石油国有化が実現したあと、イギリスによる圧力で石油の買い手が見つからず窮していたイランに、日本は手を差し伸べた数少ない国の一つだったのだ。当時、イランが国の独立をエネルギーの国有化に見出したように、日本政府もまた、戦後アメリカから買い続けていた原油を、自前で調達するようになるのが真の独立だと考えていた。そんな日本が目を付けたのが、買い手が付かず安かったイラン原油である。

イギリスの強い反対を押し切り、出光石油のタンカー日章丸が神戸港を発ったのは1953年3月。当時イギリスは、イランの原油を購入したタンカーを片っ端から海上で拿捕しており、日章丸はイギリス統治下のシンガポールを避け、遠回りを余儀なくされながらも、翌月、イランのアーバーダン港に無事入港した。日章丸入港のニュースにイラン国中が沸いたという。

イギリスは日本政府に激しく抗議するとともに、東京地裁に提訴した。日本政府はこれは一私企業の取引であるという態度を貫き、東京地裁もまた、イランの石油国有化の正当性を擁護し、イギリスの訴えを退けたという。

今、小泉政権はもちろん、マスメディアまでが、アメリカの意に反してイランの正義を代弁することなど、思いも及ばないらしい。
「日本は経済でアメリカを倒した」
この言葉が、称賛から皮肉へと急速に変わっていくのを、ひしひしと感じる今日このごろである。

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