「終わらないトンネル」
各社報道の通り総統罷免案は27日の台湾の国会で否決された(議員の三分の二以上と関門が高い)。が、これで何かが変わるというわけでも、一段落がつくというわけでもない。混迷のトンネルがますます続くというだけのことである。
国会での採決に先立ち20日の午後八時から陳水扁総統は、テレビ演説をおこなった。二時間に及ぶ長大な演説で、彼は六年間の政権の成果と疑惑への弁明をおこなったのである。
陳さんは意外に元気だなというのが、私の第一印象だった。総統就任以来、もちろん言葉に気を使わなければならないせいもあって、彼の演説はきわめて退屈なものになった。この六年間、彼の生の声を聞いたことがなかったのではないかとさえ思う。
しかし、この日の晩は違った。直接国民に問いかけようという意志だけは感じ取れた。ほとんど原稿らしきものもなく、二時間しゃべりとおした。日本人にはできない芸当である。それだけでもすごいといえるかもしれない。しかし中身は平凡だった。あらゆる自分の身辺の疑惑について、私は知らない、思い当たることがない、判断を皆さんにお任せする、というだけで説明義務を果たしたといえるだろうか。
しかしこの演説の最大の問題点は、中身や時間の長短ではなく、その言語にあった。彼はほぼ全篇福建語で通したのである。福建語は、福建省南部の言葉で、こちらではミンナン語とかホーロー語とも呼ばれる(台湾語という言い方はエスノクラシーだとして最近は避けられる)。
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