「赤と緑」

photo0924.jpg台北は相変わらずである。「やめろ」という人と「やめない」「やめなくていい」という人が合い争っている。ただ、いま「やめろ」と叫んでいる中心人物が施明徳元民進党主席であるという点でちょっと雰囲気が違う。

施明徳は台湾民主化闘争の伝説的な活動家で、陳水扁はその流れの末端に位置しているに過ぎない。いわば大先輩が、成り上がりの後輩に引導を渡しているようなものである。

施明徳の呼びかけた座り込みはもう二週間以上続いている。総統府前に平日でも一千名程度が座っている。シンボルカラーは真っ赤。民進党のカラーは緑、中国国民党は青。いままで緑と青が対立していたのが、いまは緑と赤が対峙している。

緑の人が集まっているところに赤い傘を持っていったり、赤の人が集まっているところに緑の帽子をかぶっていったりしてはいけない。殴られるからである。袋叩きに会う。冗談ではなくて、これは外務省やNHKも国民に忠告すべきことである。集会のそばで日本語で話すことも避けたほうがいい。台湾の各都市ともにそういう雰囲気にある。

大統領府前の道路を群集が二週間もふさいでいる。そんな民主「国家」が地球上に存在するのだろうか。「陳水扁がやめない限り台湾に未来はない」とプラカードに書かれている。確かにそうだが、台湾の未来とはいったいなんだろうか。
集まっている人たちは庶民である。しかしなんとなく緑の人たちとは雰囲気が違う。かつて総統直選を求めて駅前に座り込んでいた人たちとも顔つきが違う。うまく説明できないが、ちょっと「凄」という感じがする。

「阿扁下台」(扁ちゃん辞職しろ)と叫び続けている。「下台」という時に、利き手あるいは両手を差し出して、グーのまま親指を下に下げる。アメリカ人とかが、「ナイス」というときに、グーをして親指を立てるが、そのちょうどその逆さまである。あごをそらすようにして、腕を伸ばし、親指を地面に突き刺すようにする。

この動作を初めて見たのは、2000年3月の総統選で国民党候補が敗北し、当時の李登輝主席兼総統が国民党を追われたときである。そのとき党本部前に集まった群衆が得意げにこの動作を繰り返していた。どこからきた手つきなのだろうか。台湾人の発明なのだろうか、漢民族の伝統なのだろうか、いずれにしろ、いかにも台湾人ならではの、この場の雰囲気を決定付けている動作である。

これは直接見たわけではなく、テレビの画面なのだが、その群集の中に小泉首相の大きな写真を引き伸ばして持ち込んでいる人がいた。それを老人が傘の先で突いている。腐敗した総統辞めろという集会で、どうして日本の宰相がいじめられているのか、それもわけがわからない。日の丸を焼くのも大好きで、彼らの一種の習慣のようである。
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