総統一家の財布
昨夜(11/6pm8:00)、陳水扁総統のテレビ演説がおこなわれた。もちろん、検察からの呉淑珍夫人起訴、総統有罪の決定を受けた答弁に相当するものである。総統は一時間あまり、福建語を交えながら中国語でテレビカメラに向かって自らの潔白を主張した。
その要点を私なりに整理すると、以下のようになる。一、今回の決定は、政治家にとって死刑に値する。二、自身の月給は84万元で、その半分は国家に返上している。一方でわずか一千万元あまりを自らの懐に入れるということがあるだろうか。
三、検察は総統府の予算項目について曲解している。四、総統府の機密費は外交上の配慮からすべてを公表できない。公開すれば生命を危うくする人も出る。五、検察は自分たちに十分な弁解の機会を与えなかった。六、一審で有罪判決が出れば即座に辞職する。七、妻=呉淑珍の体調は取調べに堪えられないほど悪い。
検察と真っ向から戦う姿勢を示したといえる。さすがは台湾大学法学部の秀才、弁護士出身の総統だけのことはある。ぼーと聞いていると、理路整然とした答弁のように思える。堂々たるものであった。私にもいずれが正しいのか、判断の方途がない。
ただ彼は、問題となっている数々の目的不明の領収書の真相についてはまったく言及しなかった。庶民は、大局よりも、そうした下世話なところに関心を寄せるものである。そういう意味で、今回の演説は多くの有権者を納得させるものとはならなかったといえる。
そもそも不思議でならないのは、大陸にいるスパイの生命が脅かされたり、友好国に被害が及んだりするような機密予算の点検に、どうして○○デパート、○○書店での日用品の買い物が登場するのだろう。なにゆえ総統府の予算で児童書からダイヤモンドまで購入されているのか。総統夫人といえども、そうした機密費を自由に引き出せるものだろうか――。
いったいこの国の会計処理はどうなっているのか。以前にもこの日誌で述べたが、蒋父子独裁時代が清算されないまま、総統一家の財布と総統府の予算の区別がつかない状態が続いているのではないかと疑わざるをえない。その罪をすべて呉淑珍という一人の女性におっかぶせるのは酷ではないかと思うし、やはり民主主義時代の総統は民から選ばれた総統として責任を負うべきなのではないかとも思う。
妻ばかりか、夫妻の娘にも疑惑の目が向けられており、総統夫妻、その娘夫婦(婿とその一家はすでに起訴済み)、さらには息子たちも含めて、一家仲良く被告となる可能性が取り沙汰されている。
起訴状を書いた検察官は台湾大学法学部で総統と先輩後輩の関係にある。その検察官は、総統の抗弁に、激しく反発している。しかし裁判がほんとうに始まったとしても、陳総統の任期中に一審判決が下ることはありえない。すなわち検察が国家機密にかかわる決定的な証拠を突きつけない限り、総統が自ら下りる可能性はないということである。
総統が免責と交換に辞任ということはありうるだろうか。あるいは現職のまま長期療養という形をとったとしても、法的には呂副総統が代行することになる。呂秀蓮副総統の一挙手一投足にも関心が集まっている。
*写真は昨夜のテレビ画面(TVBS)