ドアのベルが鳴ったかと思うと、階下からアービヤーネ支店長が鍋を抱えて上がってきた。遅くなって申し訳ないと挨拶しながら、絨毯の上に食布を敷いて、ご飯や鳥のトマト煮、ヨーグルト、ハーブのサラダなどを並べ始める。奥さんの手料理だという。わざわざアービヤーネ村に戻って取ってきたのだそうだ。私たち3人が食事をしている間も、支店長はキッチンで食器を洗い、食後のお茶の用意までして、さらに私のために明朝のバスの時間をバス会社に電話で問い合わせてくれた。

支店長は食後の鍋や皿を集めると、「何か他に御用はないですかな」と丁重に尋ね、この一週間の監査役の苦労をねぎらい、帰っていった。監査役二人は、別に偉そうにふんぞり返っているわけでは決してないが、やはり監査する側とされる側では、立場がずいぶんと違うようである。

食べ過ぎて動けないという私を、モフセニーさんが散歩に誘ってくれた。あらかた店を閉め、閑散とした夜の商店街をぶらぶらと二人で話しながら歩く。
「アフマディネジャード政権というのは、イラン人にとって、どうなんでしょう。この1年半、よくやっていると思いますか?」
「ああ、よくやっていると思うよ。ハタミ政権に比べれば色んな違いはあるけれどね。

例えば? そうだね、ハタミ政権では、表現の自由や欧米との関係改善が進んだよね。一方、アフマディネジャード政権は、その逆の面もあって、幾分過激な言動も見られるけど、国内の団結や、地域諸国や途上国との関係強化を進めている。ハタミ政権とアフマディネジャード政権は正反対の性格のように映るけど、どちらも目的は一つ、国家の発展だ。

そういう意味では同じだよ。改革派だ、保守派だと争っても、国の発展を目指すという意味では同じなんだ」
「アフマディネジャード政権の核エネルギー政策は少し性急だと思いませんか?下手したらこれを口実にアメリカは攻めてきますよ」
「いいかい、アメリカの目的はイランに核開発を放棄させることなんかじゃない。イランのイスラム共和制を崩壊させることが目的なんだ。革命から28年、アメリカはいつだってそのチャンスを狙って、言いがかりをつけてきた。

核開発も口実の一つに過ぎないんだ。たとえイランがアメリカのご機嫌を取って核開発を中断したとしても、また別の口実を持ち出してくるだけさ。つまり、我々が核開発を進めようが進めまいが、アメリカの政策は変わらないってことさ」
「でも、近い将来、もしアメリカが期限を設けて、例えば一ヶ月以内に核開発を停止しなければ、地域の安定を乱す要因と見なし、イランの核施設を空爆する、というような最後通牒を突きつけてきたら、イラン政府と国民はどういう選択をするんですか? つまり、戦争してでも核開発を進めるつもりですか?」
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