◆イラン人は誘拐に驚かない
【修復中のアルゲバム/バム】
中村さん誘拐の第一報が日本のメディアで流れた翌日の11日、イランでは唯一イラン国営通信がこのニュースを小さく報じたのみで、新聞各紙は一切このニュースに触れていない。
「イラン人は誘拐のニュースなんて興味ないんだよ。たとえそれが外国人でもね」とイラン人の友人は私に言う。
実際、イランでは毎日のように新聞に誘拐事件のべた記事が載り、確かに珍しくもない。
イランでは誘拐は非常に多い。強盗事件や窃盗、詐欺などと比較しても、金品を違法に入手する手段として、誘拐はさして突拍子もないやり方ではない。
そして、強盗や窃盗と同じように、誘拐は人が死ぬ犯罪だとは思われていない。誘拐事件で人質が殺されたというニュースはイランでは聞かない。
例えば、これを書いている二日前、中村さんが誘拐されたバムから車で2時間ほどのケルマン市で、ある誘拐犯が逮捕された。
この誘拐犯は5人のアフガン人を拉致し、身代金450万リアルを要求していたという。450万リアルとは日本円で5、6万円であり、イラン人の平均月収の2倍にもならない。この事件の犯人が人質の殺害を覚悟して犯行に及んだとは考えづらい。
さらに、イランの警察がこんな事件にも(といっては人質に失礼だが)迅速に取り組み1週間ほどで犯人を逮捕していることも注目に値する。誘拐は珍しくもないが、その分警察の動きも早いとイランでは言われる。
この事件に流れるこうした空気は、隣国アフガニスタンやイラクでの武装勢力による外国人誘拐事件のそれとは明らかに違うものである。
◆解放はあるか
中村さん誘拐事件の公表から丸一日たった12日未明には、すでに犯人グループの居場所まで特定され、イランの治安部隊による人質解放の説得が始まっているとメディアでは報じられている。
犯行グループがベルギー人カップルを誘拐したのと同じ「シャハバフシュ」というグループであるなら、中村さんも無事解放される可能性は高い。
ただ、同一犯であるがゆえに気がかりな点はある。「シャハバフシュ」が同じ犯行を繰り返したということは、ベルギー人カップルの解放とともに自らの目的を達し、かつ逃げおおせたことを意味し、イラン政府は今回の彼らの犯行により、そのことを内外に知らしめた形になった。
そのため、今回こそは是が非でも彼らを逮捕しよう望むだろう。説得工作が強引な奪還作戦に変わらないことを祈りたい。