事故が起きた場合は「自己責任」
フリーランスの活動領域が広がるにつれ、問題となってくるのは取材先での危機管理である。
「安全」の確保という点から見れば、マスメディアの記者たちよりも危険な取材を行うことも多い反面、取材のバックアップ態勢は一般的に貧弱である。

まず事故が起きたときの保険はどうなっているのか。
戦地での取材には特別な「戦争保険」がある。
しかし、掛け金が高いので自分のカネで加入したというフリーランスは聞いたことがない。
例えばバグダッド取材の場合、掛け金が1カ月200万円(死亡で約1億円の保障)などということもあるらしい。

【イスタンブールで取材する玉本英子(トルコ ・2001年)】

だからフリーランスはたいがい通常の「海外旅行保険」だけで済ます。
イラクなどで事故が起きたときは、おそらく保険金は払われず、自分で対処するしかないだろう。

ただ「戦地」や「危険地帯」の定義は意外とむずかしいもので、パレスチナの抗議行動を取材中、イスラエル軍のゴム弾を目に受けて負傷したカメラマンに「海外旅行保険」の保険金が下りた例もある。

いずれにせよ、大方のフリーランスは「戦争保険」に掛けるカネがあるなら、取材費に回したいと思うものである。
いつも単独で行動しているフリーランスにとって、万が一のときの救援態勢を整えている人は少ない。

ギルド的な互助組織も機能しているとはいえず、緊急の場合は友人関係で動くことになる。
アジアプレスの場合は、不十分ながら緊急時に迅速な対応ができる態勢を敷き、現地との定期的な安全確認を怠らないように心がけている。
フリーランスにとって事故が起きたときの責任の所在については、すべて「自己責任」ということになる。

玉本英子は取材前、「この取材はすべて自身が企画し、いかなる事態になろうとも責任は自分のみにある」という「確認書」を親に見せて署名してもらう。
また所属事務所であるアジアプレスともいくつかの了解事項を取り交わすことになる。
例えば、その中には取材中、武装勢力に拉致、誘拐されたときの対応なども含まれる。

「私が誘拐されたとき、日本政府はむろんのこと、アジアプレスであれ、NGOであれ、救援活動は一切拒否します」といった内容の「覚書」を残すこともある。
自らの意思で取材を行い、その結果に対しては自分で責任を負う、というフリーランスの「心構え」と「覚悟」を示したものである。

このような決意を持って戦場取材に臨むからこそ、危険な現場に踏みとどまり、「良い仕事」ができるのだと思う。
一般的な「才能」や「能力」よりも、大切なのはスピリットである。
(敬称略) (つづく)

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