朝中国境で取材活動する「リムジンガン」記者 柳京元(リュウ・ギョンウォン)
私は、朝鮮民衆のことを良心に基づいて記録しようとする平凡な朝鮮人です。
1990年代に朝鮮を襲った前代未聞の飢饉と大混乱によって、朝鮮の人々も社会も、大変な変化を余儀なくされました。
あまりにも辛かったその時の傷によって、私のような平凡な人間までもが、時が流れゆく中で漂うままになっている事象を、しっかり記録しておきたい、声を上げたいと、強く考えるようになったのです。
私たちがしようとしていることは、簡単明瞭です。
朝鮮人の実情を記録し、その姿を写し出す鏡を作ろうということです。
現在、我が朝鮮には自由な言論の場はありません。民衆の鼓動が山河に溢れるようとも、それを記録することもできないし、国(上層部)に伝えることもできないのです。
社会の傷口は、少しずつ膿み始めています。
私たちの記録は、この病にかかった社会を診断し、治療するために役に立つことでしょう。
韓国や日本、世界の読者に向けて「リムジンガン」に掲載された私たちの文章は、あまりに稚拙で、写真もちゃんと撮れていないことは否定できないでしょう。
その理由は、本当に素朴な人たち、発表の機会がなかった平凡な民衆による記録が多いからです。
しかし「リムジンガン」は、このような民衆の言葉と文章をできるだけそのまま、そして数多く掲載していくつもりです。そうしてこそ自由な言論になるからです。
私も、初めは朝鮮に自由な言論など荒唐無稽な話だと考えなかったわけではありません。
しかし「始めることができるならば、半ば成し遂げたも同然だ」という朝鮮のことわざがあるように、まず第一歩を踏み出すことができれば、はるか千里の道も、なんとかして歩き続けることができるはずだと考えたのです。
拙い私たち朝鮮人のリポートが掲載される雑誌ではありますが、臨津江の澄んだ水が南北の大地をくまなく潤していくように、この言論のマダン(広場)の中で、北南民衆の意思の疎通が、少しずつ少しずつ進んでいくことを、切に希望しております。
分断を越えて流れる「リムジンガン」柳京元 (リュウ・ギョンウォン)