北朝鮮では、宗教と迷信は社会主義思想を瓦解させて、階級意識を麻痺させるアヘンのようなものとして長く排撃されてきた。
多くの脱北難民が証言するところによると、1960年代には、表だった宗教活動はほぼ姿を消してしまったようだ。
キリスト教や仏教のみならず、民族固有のシャーマニズム(「クッ」など)や占いも激しい弾圧を受けたという。
ところが、80年代の終わり頃から、迷信や占いが凄まじい勢いで復活していった。
理由は、生活苦から来る不安感が社会に蔓延したことによると思われる。
今、北朝鮮でどんな迷信や占いが流行っているのかを、シリーズで紹介していきたいと思う。それが社会の空気や世相を表す一つの要素だと思われるからだ。
豆腐
商売のためにヨンオクはしばらく外地をまわることになった。
出発を前に、ヨンオクの家には、仲間が一人二人と集まってきた。
ヨンオクの商売旅行に際して、買い物を頼んだ人、お金を預けた人、一緒に出発する人たちだった。
いうなれば、今回の商売と運命を共にする人々である。
無口なヨンオクは、彼女らの前に食卓を準備し、一人一人に行き渡るように、白い豆腐五丁を皿に盛った。
皆、すでに食事は済ませている。今回の商売の旅の成功を願うために、豆腐を食べる儀式をとりおこなおうというわけだ。
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