平壌の公設市場に並ぶ服にも、中国はもちろん、韓国のファッションの影響が入り込んでいる。(07年8月 リ・ジュン撮影)

 

北朝鮮では、現在南朝鮮(韓国)ドラマが一種のブームだと言える。
ただブームとは言っても、まったくの非公式のブームであり、これを見たり、コピーしたり流通させたりしたのが発覚して、政治的犯罪に問われて懲役を受けている者も多い。そう、特殊なブームなのである。

このような南朝鮮ドラマへの熱気は、北朝鮮の大衆文化の落後性ということと、闇市場の発達によって、非合法のビデオまでも商品として取り引きされるということの、二つのエネルギーによって発生したものだ。
しつこい暑さも幾分やわらいだ夏の夜のことだった。

先ほど退勤してシャワーを浴びた人民武力部のパク大佐は、食卓に座って冷たい清水冷麺(中国から入ってきた即席冷麺。暮らし向きの良い平壌市民の間で人気が高く、味は南朝鮮の水冷麺に似ている)を口いっぱいにほおばっていた。
すると突然、職場がつけてくれた赤い電話が鳴った。

持っていた箸を急いで置いて立ちあがったパク大佐は、体をよじって電話機に近づき、両手で受話器を取って、丁寧に耳を近付けた。
受話器から聞こえてきたのは、意外にも若い娘の声だった。
「すみません、チョルミンのお宅で間違いありませんか?」
その言葉遣いにショックを受けた。聞き慣れない、ソウルの言葉のようだったのだ。大佐は一瞬、面食らった。

「は、はい、そうです!」
「チョルミンのお父さんですか?」
言葉遣いから察するに、ソウルの人間がかけてきた電話だという予感が、確信に変わってきた。
「そ、そうです、チョルミンの父です!」
「チョルミンをお願いします」
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