「静かな選挙」
【市内バス停の国民党の広告】
日本の国会議員にあたる「立法委員」を選出する選挙の投票日が、いよいよあさってに迫った。土曜日十二日に投開票がおこなわれ、夜間に新しい勢力が判明する。
今日昼時をねらって二二八公園、総統府から西門町まで一時間ほど歩いてみた。まったくといっていいほど選挙の気配はない。
事情を知らない人が訪ねてこられて、三泊四日の旅行をされても、おそらく選挙戦の真っ最中だと気づかれないのではないか。
こうしたことを強調するのは、数年前まで、台湾の選挙は、その宣伝戦がすさまじかったからである。何十台のタクシーが飾り立ててデモ行進する、歩道橋の色がわからないほどに幟がたっている。そうした光景が嘘のようだ。
市民の関心は高くない。投票率が六割を切るのではないかといわれている。台湾は日本や韓国などと違って、この国の存亡そのものが取り沙汰されている。中国に吸収されるか、あるいは独立を勝ち取っていくのか、その分岐点に立っているというのに、この静かさはなんだろうか。
しかも今回の選挙は特別である。まず定員が225から113に半減された。また選挙制度が小選挙区比例代表並立制に変わった。任期も3年から4年に増えた。原住民枠(6)を除き、全選挙区(73)すべて一人区で戦う。初めての経験である。また比例区(34)は政党に投票する。多くの小政党が乱立している。なのに、静かなのである。
【昼食をとる路傍の老人とそれを見下ろす候補者の巨大な看板】
当然二大政党の対立になる。野党第一党の中国国民党と与党民主進歩党。国民党が優勢を伝えられている。
民進党主席を兼ねる陳水扁総統が掲げた目標は「五十」。この目標自体が過半数より少ない。最初から負けを覚悟の戦いをやっている。
陳総統は、言う。
もし三分の一の議席しかとれなかったら(38議席以下)、三月の総統選で自党の謝長廷候補が当選しても、意味がないと。そう、謝政権は一歩も歩み出せないだろう。
すなわち、民進党が四十を割るようだと、総統選挙の帰趨も見えてしまうということである。
ただいま午後七時。今日も一日、選挙戦らしいスピーカーの音を一度も聞かなかった。