「ある原住民作家の死」
【ホスルマン=ヴァヴァとその妻。2003年】
昨年末12月29日に一人の台湾原住民作家が心筋梗塞で急死した。ホスルマン=ヴァヴァというブヌンの男性で、まだ49歳だった。
数年前に台湾南部屏東市の自宅に取材したことがある。学校の教師らしい落ち着いた穏やかな人柄で、執筆作品も、自らの民族へのオマージュともいえる幻想的な奥行きの深いものだった。
奥さんは同民族ではなく、同じ山岳民族のパイワンの人だった。娘が二人いて、一人はブヌンの子として、一人はパイワンの子として、育てているとうかがった。
原住民作家は、たいてい自らの所属する民族の文化や言語に深いこだわりをもっているものだが、そうした知識人の多くが、他民族と結婚しているという矛盾を抱えている。
ホスルマン=ヴァヴァもそうした典型的な文化運動のリーダーとして、多くの若者に慕われていた。
彼の作品を翻訳した知人は11月に電話で元気な声を聞いたばかりだという。ほんとうに思いがけない、早すぎる死だった。
私は多くの日本語世代の原住民をここ台湾で見送ったが、その次の世代の死に遭遇することもいまや少なくない。彼らは戦後台湾のもっとも過酷な時代を生き抜いてきた生き証人たちで、平均年齢も決して高くないのである。
一月二十七日に地元では追悼式が開かれるという。
参考:草風館『台湾原住民文学選第四巻・海よ山よ』