街はずれの小さな市に近所の女性たちが集まる。人民班は生活に密着した行政の最末端単位だ。(2004年4月咸鏡北道茂山郡 朴烈撮影)

 

ほとんど真っ暗なビデオテープの画面。足音から察するに、撮影者は歩いてどこかに向かっているようだ。
ほんの少し、ぼんやり見える一点の明かりにカメラは近づいて行く。歩みが止まり、どこかの建物の中に入って行く気配がしてすぐ、女性たちのざわつく声が聞こえて来た。

小さな女の子の声も聞こえる。誰かが咳をするたびに痰が絡むような音も聞こえる。
突然、場を仕切るような女性の大きな呼び声がその場に響いた。
「5班。ちょっと5班の班長さん、こちらへ来てください。すみませんが、早くしてください。早く早く。その次、4班…」
「19世帯来ました、うちは19世帯」

4班の班長の声なのだろう、別の女性の声が、待ち構えていたかのように素早く答えた。
「19世帯?じゃあ次、2班」
「はい」

「2班は合っていますよね?いや、4班は合ってないように思うんだけど、19世帯も来たっていうから。ちょっと○○さん、今日から班別に人員を確認することにしましょう…」
これは、2006年11月に女性記者ペク・ヒャンがビデオカメラで取材してきた咸鏡北道金策市の「洞住民総会」の冒頭の様子である。

北朝鮮の都市には、市または区域の下の末端行政機関として洞事務所がある。
日本でいえば町役場で、洞事務長と指導員がいる。多くの場合、洞事務所の隣には洞駐在員(保安員=警察)室、洞担当保衛指導員室が並んでいる。
「洞住民総会」には、人民班(隣組組織)ごとに各世帯から一人ずつ出てこなければならないが、大概の場合、説教されたり、勤労奉仕動員や供出の話なので、住民にとっては苦痛である。

各自が意見を述べ合ったり、多数決でものが決められる民主的な会ではないからだ。この日の総会も、例のごとく上からの指示を下達するだけ進行が続く。
録音された「洞住民総会」の音声と、記者ペク・ヒャンの解説をまとめた。
「洞住民総会」の様子が公開されるのはおそらく初めてのことだろう。

女性の洞事務長はすぐに市の人民委員会会議で先ほど受け取ってきた指示の発表に入った。
皆、綿入りの冬服をしっかりと着こんでいるが、彼女は職務として大衆の前に出るため、肖像輝章(金日成バッジ)を服の表につけなければならない。
それで彼女だけが冬服を脱いでいる。寒さを我慢しようとしてか、話す口調も早口で声も大きい。
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