「原住民の選択」
台湾原住民と呼ばれる人たちがいる。そう呼ぶことが科学的に正確かどうかには疑問もあるが、少なくとも漢民族より以前に台湾に渡来したオーストロネシア語族のいくつかの民族の総称である。
彼らは台湾全人口の2%にも満たない。有権者数はおよそ30万。台湾総統選の結果を直接左右するほどの人数でもない。しかし、その動向は常に国際的な注目を集める。
3月の総統選に向けて中国国民党馬英九候補(前台北市長)と民主進歩党謝長廷候補(前高雄市長)がそれぞれ届け出て、この2人の決戦が確定した。
台湾の運命を決する関ヶ原といってもよい。
台湾についての講演会などに呼ばれると、いつも出てくる質問がある。原住民は、どういう姿勢でこの戦いをみているのか、と。
簡単に言うと、彼らは「反民進党」である。
例えば先の立法委員選挙。原住民には6つの議席があてがわれていたが、与党民進党は一つも取れなかった。それどころか、民進党候補者の得票率は合計でも7%に満たない。
どうして原住民の世界では民進党に人気がないのか。
民進党は台湾で大多数を占める福建系漢人を主たる構成員としている。日本人が台湾で出会う大半がこの福建人であろう。一方、国民党は大陸のいろいろな省から戦後、蒋介石とともに渡ってきた人たち(外省人)が主要メンバーである。
前者は台湾の自立・独立を志向し、後者は大陸との交流促進あるいは統一を志向している。
前者は300年ほど前から続々とこの辺境の島に渡ってきた開拓民の末裔である。開拓といえば、きこえはいいが、実際は民間侵略といえるもので、彼らの開拓とは、すなわち原住民の命脈と生活空間の奪取であった。
両者はこの数百年にわたって、土地と生産物の激しい奪い合いを演じてきたわけで、おかげで、原住民と呼ばれる人たちのテリトリーは高山地帯や東部にせばめられた。
平地・山地を問わず自分の部落に福建人が入ってくると、なにか企みがあるのではと原住民は警戒する。私も多くの日本人を連れて彼らの集落を訪ねたが、漢人を伴うことはめったにしない。
福建人は、自らを「台湾人」、福建語を「台湾語」などと称する。こうした傲慢さも原住民の警戒の対象となる。むしろ原住民こそが「台湾人」なのではないか、という論理である。
原住民自身は漢民族全体を「平地人」と総称する。子供らは平地人のようになってはいけないよ、と育てられる。
多数派の福建人も、そして少数派の客家人も、外省人も、同じ大陸からこの島に渡ってきた平地人=中国人である。そのなかでは、福建人=民進党に対する反感はきわめて根深く、まだ外省人のほうが「まし」という発想が、選挙結果に如実に現れるのである。
この項続く