アジアプレス・ネットワーク インタビュー 特集 イラク戦争 玉本英子(1)
【バグダッドなどから避難してきた子どもたちが通う小学校で】(アルビル/撮影:玉本英子)
【家族が殺されたり、誘拐、脅迫され避難してきた児童の多くが心の傷を負っている】(アルビル)
イラクでは避難民が急増していますが、とくにこうした女性や子供をどう見つめてきましたか?
いまイラクに広がった暴力は、占領と抵抗という単純な図式ではありません。武装勢力をかたった強盗もあれば、イラク人でない武装勢力もある。民兵を通じた宗派間の暴力も先鋭化してしまった。だれもが疲れ果てています。こうした暴力の結果、200万人が国外へ、そして250万人が国内で避難民となったといわれています。
シーア派住民は南部に避難することもありますが、スンニ派は北部のクルディスタン地域に逃れる例が急増しました。
クルディスタン地域の主要都市アルビルには、バグダッドやモスルなどの都市部から逃げてきた人たちが目立つようになりました。多くが米軍と武装勢力の衝突、武装勢力や民兵による脅し、強盗による金目当ての誘拐などを恐れて、避難してきました。
避難民は、当初は「一時避難」という認識でしたが、いまは移住せざるを得ないと判断する者も増え、地元の家を売り払い、アルビルに家を建てる者も多くなりました。
子供たちの多くは、武装勢力の攻撃や誘拐などを恐れ、友人たちとまともにさよならも言えず逃げてきました。なぜこんなことになってしまったのか、自分が置かれた状況にいらだちをもつ子供もおり、避難児童が急増した小学校では授業中に立ったり、騒ぐなど、落ち着きのない子どもたちの姿を多く見ました。
しかし普通の暮らしが戻るにつれて、かれらも日に日に落ち着きを取り戻していったようです。子供たちは、学校の中で、お互い故郷での町でのできごとには触れず、アイドルの話やテレビの話など楽しい話だけをするようにしています。
女性たちはクルド自治区で、誘拐の不安がなくなったことにホッとしているものの、日々の生活のやりくりで頭がいっぱいという感じです。店では地元で話されるクルド語を片言話して物を買う。「何年たっても自分はよそ者と感じる」と話す女性もいる。町に残った親戚に頻繁に電話をかけ、気遣う日々が続いています。
関係のない市民が暴力の最大の犠牲者であり、この状況がいつまで続くのかがわからないことがつらいと人びとは感じています。
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<聞き手・構成 アジアプレス・ネットワーク 編集部>