アジアプレス・ネットワーク インタビュー 特集 イラク戦争 玉本英子(2)
現在、イラクを取材していて、フセイン政権時代と何が変わり、何が変わっていないのでしょうか?
いまでは貧しい家でも、家の屋根にはパラボラアンテナがたち、衛星テレビを楽しんでいます。同じように携帯電話も普及した。これまでは、フセイン政権とバース党の独裁体制で、政府に反対するような発言をすれば、いきなり秘密警察がやってきて連行され、行方不明になったり処刑されました。かつてはこういうことが日常的におこなわれてきた。
ところが、いまは、米軍の誤射で殺されたり、武装勢力の自爆に巻き込まれたり、警察や民兵に脅迫されることもある。誘拐目的の強盗は野放しです。民兵や警察が家にやってきて、スンニ派だから、という理由だけで殺害して路上に放置する。
「解放後」のイラクは、市民にとっては、何も変わりませんでした。むしろ、関係のない女性や子どもまで"等しく"暴力が浴びせられる状況になってしまった。
それを「アメリカのせいだ」とするのは簡単ですが、自ら国を再建へ向かわすことができず、宗派争いという何の意味もないことを始めてしまったイラク人自身も、そのことをよく分かっています。
フセイン政権崩壊後、たとえば公務員の給料は上がり、人びとの生活は向上しました。特に現政府に関わる者、コネのある者は海外からの復興支援に関わる仕事を得るなどして富を得るようになった。
都市部でインドネシア人などのメイドを雇う者が急増したのもその一例です。
一方、物価は高騰しました。たとえば野菜は去年と今年で倍にあがった。ガソリンも配給扱いの「割り当てチケット」だけでは足らず、路上などで1リッターあたり 1000ディナール(約120円)で買わざるを得ない。
そのため生活がたちゆかなくなった人びとも増えました。
バグダッドは地区にもよるものの去年に比べ治安は改善されてきました。現在イラクは春休み。アルビルの国内避難民のなかには、1週間ほどだが、家族でバグダッドの家に戻る者も増えました。しかし、北部モスルなどでは治安悪化が続き、いまも殺害や誘拐の恐怖におびえている。
アルビルの国内避難民の女性たちの多くは、「フセイン政権のほうがよかったとは絶対言いたくないが、いまよりはずっと人らしい生活ができたから、まだマシだったかもしれない」と話しています。こうした複雑な思いをかかえて人びとは毎日をなんとかやりすごしているのが現実です。
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<聞き手・構成 アジアプレス・ネットワーク 編集部>