お金にまつわる話(中)
※お断り ミャンマー(ビルマ)入国取材の安全を期して、宇田有三氏は「大場玲次」のペーネ ームを使用していましたが、民主化の進展に伴い危険がなくなりましたので、APN内の記事の署 名を「宇田有三」に統一します。
【金製の腕輪を質入れしにきた若者。重さを量る天秤をじっと見つめる。ビルマ人の庶民は、チャット(K)の値下がりを恐れて銀行や箪笥預金をせず、現金を金に換える人が多い】
ミニゴンの交差点が近づいてきた。
その手前で、右車線に白いライトバンが1台停まっているのが目に入る。
ちなみにビルマの交通は右車線が基本だ。
町中を走っている乗用車の7割近く(いや、もっとそれ以上かな)は日本からの中古車であるから、車のほとんどは右ハンドルである。
だから、車が左折をするときは前方の見通しが悪く、とても危険だ。
右ハンドルで右車線通行は、道理にかなっていない。
でもここは、独裁軍事国家ビルマの決めた規則だから、その道理が引っ込む。
停まっていた白いライトバンの横で、男性が1人手を振っている。
どうやら車が故障したらしい。
「知り合いの修理工がいるダウンタウンまで乗せていってくれませんか」
困ったときはお互い様。私も車の故障でなんども痛い目にあっている。
断る理由もない。
身なりのきちっとした男性が私の横に滑り込んできた。
「明日、空港にお客さんを迎えに行かなくちゃあならないのに、この有様だ。本当に困ったよ」
約10分ほど走ると、もうそこはラングーンの下町。
ホテルに着く手前で、途中から乗ってきた身なりの良い彼は車から降りる。
彼はその際、 自分の腕時計を外し、タクシーの運転手に手渡した。
「ごめんなさいね、今は現金の持ち合わせがないんだ」
「みんな困ってるんだ、だからいいんだよ」
タクシーの運転手は困ったようにその腕時計を返そうとした。
私も横から口を挟んだ。
「そうそう、どうせ私がタクシー代を払うことになってたし、同じ道を走ってたんだからいいんだよ。明日お客さんを迎えに行くなら、腕時計は必要だろう」