原住民の選択-2
福建人は信用ならないからといって、親民党や中国国民党など外省人の政党に投票するということは、台湾が中華人民共和国に併合されてしまってもいいんですかと、原住民の人たちに問いたくなるのが人情である。
ところが彼らも、そのあたりはよくよく承知で、代表団を組んで大陸に渡り、少数民族自治区などを見学したりしている民族や部落もあるほどだ。
中国にはその方面の担当部局があって、台湾原住民ご一行は手厚くもてなしてくれる。俺は李鵬の招待で人民大会堂で飯をくったことがあると、山間の集落で写真を見せてくれたおじさんもいる。
別に中国に組み込まれてもかまわないという、そのクールさはどこからくるのか。
原住民の人たちの立場に立って、この台湾を巡る混乱と政争をながめなおしてみよう。
彼らが牧歌的な生活を送っていたところへ、オランダ人に続いて鄭成功率いる明軍が侵略し、そのあと福建人が続々と「開拓」にやってきた。ついで清国、大日本帝国、そして中国国民党と、台湾と縁もゆかりもない人たちがやってきては、この島に居座って、言いたい放題したい放題を繰り返してきたというのが台湾史である。
いままた、中国との関係をめぐって、二つの勢力がしのぎを削り、互いに「俺こそが台湾を愛している」と叫びあっている。
しかし原住民から見れば、双方ともに同じ「中国人」*なのである。民進党が勝とうが、国民党が勝とうが、台湾が独立しようが、中国と統一しようが、いずれにしろ中国人にこの島が支配されることにはなんら変わりはない。
ならば、どっちが信用できるかという微妙な問題より、むしろどっちに転んだほうが「得」なのかという、これは非常にクールな問題になろう。どうせ愛のない結婚しなければならないとしたら、あなたも将来性のある金持ちのほうを相手に選ぶのではないだろうか。
どこまでつきつめて研究しているかはわたしも確信がもてないが、彼らがどうせならご本家の中国人になるほうが「まし」という感触を得たとしても不思議ではない。
それを、「自治区」という言葉に幻惑されているとみた民進党は、この間必死になって原住民自治法案の策定を図ってきたが、総統選前に実現する見通しはなさそうだ。
そして、現代台湾では、原住民族も一人ひとり、台湾=中華民国の元首=総統を選ぶ神聖な一票を投じる権利を有している。
投票までいよいよあと四週間。
~本稿続く~
注)本稿でいう「中国人」とは中華思想を信奉し、中華五千年の伝統を受け継ぐ諸民族の総称である。