原住民の選択-3

i200803amay.jpg【台湾台東の故郷で寛ぐ「A-mei」こと張恵妹】

原住民の人たちのクールな見方を参考に改めて見直してみると、台湾騒動のもう一つの姿かたちが鮮明になってくる。
それは、互いに激しく罵倒し小競り合いを繰り返していても、双方ともに同じ漢民族であり、「中国人」であるということである。宗教も言語も民族も軌を一にした同族同士の争いであり、その点では、チベット・ティモール・コソボといった民族・宗教対立とはまったく次元を異にする。

この総統選も、冷静に事態をみれば、一つの島の利権を巡る中国人同士の勢力争い、「台湾の奪い合い」だということになり、そう居直ってしまうと、いろいろ不可解だったところも、霧が晴れるようにみえてくるだろう。

総統選を前にして、いろいろな日本人が「視察」「見学」に訪れる。初めて台湾にきた人たちなどはたいへん驚く。日本で見聞きしてきた「台湾の声」とまったく違う声に接するからである。
私自身も今更ながら驚くのであるが、「台湾の人たちは独立を目指してがんばっているが、中国に抑え込まれている」という妄想が広く日本人中に普及し、定着してしまっている。

それは我々メディアの責任大なのだが、十数年前ならまだしも、いまや情勢は大きく変貌している。そうした変化を感じ取れていない人たちが実に多いのである。
台湾の二十代の人たちは、国民党独裁時代を知らない。そして彼らが育ってきたこの十年あまりの間に、台湾と中国の経済文化関係は我々の想像以上に深く太くなっているのである。

「独立を目指しているが、中国に抑え込まれている」という古い台湾観にとらわれてしまうのは、台湾という島、あるいは台湾海峡だけを見ているからである。
もうすこし視野を広くしてアジアを覆う華人圏を全体として見渡してみることが必要である。
するとまったく違うアジアの様子がみえてくるはずだ。彼らはすでに国境などを越えてグローバルに活動し活躍している。台湾人もアジア各地に進出し、上海周辺だけでも百数十万人の台湾人が生活している時代なのである。

台湾人を「本島人」としてしかみず、国境・国籍にこだわっているのは、日本人くらいなものである。
音楽や映画に興味をお持ちの方は、すでにご存知のように、アジアで活躍する華人の歌手や俳優は最近はほとんど出身地が問題にされなくなった。芸能界ではすでに台湾、香港、シンガポール、上海といった区別は意味を成さない。彼らはすでにアジア華人圏の歌手であり俳優であるということである。

あと半年に迫った北京オリンピック。開会式で歌う歌手が取り沙汰されているが、その有力候補の一人は、台湾原住民の歌手「A-mei」こと張恵妹であるという。
こうしてアジアの華人社会に強大な経済文化圏が国境をこえて成立している。しかし、どのような政治の仕組みを選ぶのかは、個々の地域の住民の意志による。台湾総統選はその意志を選択し宣布する儀式とも言える。
投票まであと五日に迫った。

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