ちょっといやな空気が流れ始めたな、という不安を覚えている。聖火をめぐって「反中感情」の競りあがった日本社会のことだ。
長野を聖火が走った後、私の教えている大学で一連の騒動について意見を書かせたところ、250名の学生たちのほぼ全員が「悪いのは(人権を抑圧する)中国である」と述べていた。
毒入りギョウザ事件などもあり、「中国悪玉論」の素地はすっかり出来あがっている。
このような日本人の反中、嫌中意識は、中国側の反日感情を刺激する。長野から帰った中国人留学生たちのサイトには、「LOVE CHINA HATE JAPAN(中国を愛し、日本を憎む)」と書かれ、「やはり日本人は信用できない」との反感が広がっていた。
チベットの旗を振る右翼系の日本人(チベット人ではない)から罵声を浴び、大学に戻れば、周囲の日本人学生の冷ややかな視線にさらされる。「日本人とは理解しあえない」と感じた留学生たちは少なくない。
西欧列強や日本の侵略を受けて国土をぼろぼろに食い荒らされ、革命後も苦難の道を歩いてきた中国にとって、オリンピックの開催は「百年来の悲願」だった。
「これでようやく国際社会の一員として認められた」と喜ぶ人びとの心情は理解できる。聖火を守ろうとして、長野へ向かった数千人の中国人留学生たちも同じ思いだったにちがいない。
いま日本のナショナリズムは、その矛先を中国に向けることで、醸成されている。右翼の論客たちと議論をすれば、必ず中国脅威論が飛び出す。「日本を脅かすもっとも危険な敵は中国である」という主張である。
先ごろ、上映中止でもめた映画「靖国YASUKUNI」をめぐる騒動でも、背景には中国に対する露骨な敵愾心がある。
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