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【足枷を付けて地面を掘り返していた2人。他の10人の囚人には足枷が無かった。逃亡防止なのか、或いは懲罰なのか、その理由は分からない】
「プリズン(刑務所だ)、プリズン(刑務所だ)」
その男は喚いている。
制服を着てないなら、なんとかなりそうだ。
こういう時は、臆するよりも堂々とする方がいい。

こちらから彼に近づいて行き、話しかけてみた。
「プリズンだって? オーケー、オーケー。ところで、彼らは何してるんだ? 米を作ってるのか? それとも野菜作りか。何してるのか教えてくれよ」
「野菜だ。野菜だよ」
突然現れた外国人にどう対応したらよいのか、戸惑いながらポロシャツ男は答える。

数人の囚人は、私とポロシャツの男の会話を、笑顔で聞いている。
その他の囚人は、何事が起こったのかとポカンとしている。
「そうか、野菜か。じゃあ、その畑の写真を撮りたいんだが、働いている彼らがじゃまになるから、そこをのいてもらえないだろうか」
まさか、そんな子ども騙しの話が通じるとは思わなかった。

だが、あくまでも畑の写真を撮りたいんだ、とポロシャツの男に頼んでみた。
「おい、そこをあけてやれ」とポロシャツ男は囚人たちに命じる。
囚人たちは訳が分からない顔しながら鍬や鋤を入れていた場所から動き始めた。

私は、彼らが空けた場所にカメラを向けるフリをして、1カ所に固まった囚人たちにカメラのレンズを向けた。
冗談みたいな話が通じた。
ここでは囚人を監視している人物が2名いる。

これ以上の撮影は無理だな。
実は、緊張が限界まで来ていたが、あくまでも平然とした顔で、ポロシャツ男に、じゃあ、と別れを告げた。
ラングーン(ヤンゴン)に戻って、ビルマ人の友人にその時撮した写真を見せてみた。
「よく、こんな写真が撮れたねえ。びっくりだなあ。彼らが一般の犯罪者か、それとも政治犯なのか分かれば、いいんだがなあ。それにこの足枷は、逃亡防止なのか。それとも罰のためなのか。その辺りを知りたいし」
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【収容中の様子を語る Nay Tin Myntさん。毎日、最低1時間、足枷と足枷の間に鉄棒を差し込まれた状態で身動きのできない状態にさせられる。すこしでも動けば殴られたという】
あの状況で、囚人に話しかけるのは、ほぼ不可能であった。

それに2年ほど前、ビルマ北部カチン州の石切場で働かされていた元政治犯に話を聞いたことがあった。
彼によると、見せしめの罰として、彼と従兄弟の2人の政治犯は他の一般の犯罪者と区別され、ずっと足枷を付けられたまま働かされていたという。
もっとも、今回目にした足枷の囚人が、政治犯でない一般犯罪者であっても、炎天下で足枷をつけられて働かせるのはちょっと行きすぎだと思えた。
~終わり~

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