人民軍は栄養失調続出
一〇・九核実験に関する報道が朝鮮国内でも流れてしばらくたったある日、記者シン・ドソク(申導石)は、朝鮮人民軍現役軍人と、ある地域の化学工場の労働者と、核実験について考えを述べ合う機会をもった。
三人は頻繁に会って商売の話をしている間柄で、集まって食事をすることも多く、この話もそのような席でなされたものである。
政治的にきわどい自虐的な揶揄を口にしている反面、指導者に対する発言は一線を越えないよう注意している様が窺われる。
シン・ドソク:今回の核実験は、事前に世界に予告をしてから行ったというが、どの国も実験をやった証拠をつかめなかったらしいな。
軍人と労働者:そうらしい。
労働者:我々がわざわざ予告してから実験したのに、世界は放射性物質も何も感知できなかったんだとよ。
つまり、今回は、米国もお手上げだったわけだ。それで、平和裏に対話をしようと米国の方から出てきた。在来式の武器では、どうにも米国を動かすことができなかったのに、核武装をしたらあっという間に解決したということだな。
軍人:それはともかく、我が人民軍はもうボロボロでみじめなもんだ。いいか、もう戦争なんて起こせないから。
シン:へえ? 軍隊がボロボロというのはどういうことだ? 暇がたっぷりあるということかい。フフ。
軍人:はは。「共産軍」(注1)がどんな状態かいっぺん見てみる値打ちがあるぜ。将軍様がその報告を受けて、「私はそんな軍隊を持ってない」と言ったというほどだからな。
察しがつくだろう、兵隊が栄失(ヨンシル、栄養失調のこと)のくせに戦闘準備なんてできるかっちゅうんだ。
建設だ、農業だ、外貨稼ぎだ、糞土生産だなんて言ってるが、実際は、商売に盗みこそが人民軍の基本活動だ。
ははは。戦闘準備はやるふりをするだけ。米国なんかは、それを全部衛星で見て知ってるんじゃないか? 米国は怖がりだから、我々がボロボロなのに、ブルブル震えてるんだろう。
シン:ところで、戦争が起こらないなんて、なんでお前にわかるんだ?
軍人:我々には、戦争は起こせないのだが、やつらに見せつけてやらないとあかんのだ。
警戒態勢に入ると、我々は防毒マスクを付けて坑道に入って行く。やつらが間抜けでない以上、我が国の軍隊、人民がどう動くのか全部お見通しだろう。だから「警戒態勢に入ってるな。うかつに飛びかかってはいけないな」と、用心するわけだ。
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