巨大収容所と化した農村
石丸 国家、政府による経済立て直しは、なぜ困難にぶつかっているのか?
ケ 国家も決して何もせずじっとしているわけではないが、経済正常化は実に大変だ。
すべてを説明しようとすると複雑だから、一番重要な食糧問題を取り上げよう。

工業技術水準が低い我が国において、経済正常化のカギは労働力管理にある。その中でも労働に対する支払い、とりわけ労賃よりも食糧問題解決が重要だ。
あまりにひどくて予測も分析もままならない悪性インフレに加え、労働力供給が過剰な状況があり、おまけに国際社会からほとんど孤立している中で問題解決に臨まなければならないのが我が国だ。経済正常化の試みがどれほど困難であるかを少しは理解することができるだろう。

食糧問題も、国内外からの供給と、その配分体系を分けて考えてみるとより分かりやすいだろう。
食糧を生産する協同農場をまず見よう。
一言で言って、協同農場は破壊されたも同然だ。一九六二年に、粛川(スクチョン)郡を模範として朝鮮に樹立された「新しい農業指導体制」は、中身は中国の人民公社を模倣したものだった。

それは里(朝鮮の行政単位、道、市、郡の次にくる)単位で協同農場を組織して、里の行政と協同農場の経営を一体化させたものだった。その上に郡協同農場経営委員会、道農村経理委員会、中央に農業委員会が立ち上がった。
これは朝鮮の農村に形成された巨大権力であり、また明らかに一つの利益集団だった。

それでは、農村では誰が労働力となったのか。現在の農村の住民制度がよく現しているように、朝鮮の農村は「革命化」地域も同じだ。
元々は、朝鮮戦争の頃から農業の仕事は、女性農民の役割という考えが常識となった。
七〇年代からは、小、中、大学生たちが(動員労働力として)組み込まれ、八〇年代からは、全社会が農村動員をするようになる。

「苦難の行軍」期にも、平壌を含めた各都市から自発的あるいは強制的に「農出(農村進出)」が大々的に起こった。
農村に行く都市住民にとって辛い問題はいろいろある。
農村の文化的後進性にもうんざりするが、それよりも胸が詰まるのは、今後、子々孫々、永遠に農村から離れることができない、人間を農地に縛り付ける中世のような農村住民制度を見てしまうことだ。農場員は、結婚相手も農民を選ばなければならない。

言わば農村は、一度足を踏み入れれば抜け出すことのできない朝鮮社会の「地獄」である。食糧を自給自足できない国に建てられた「巨大収容所」のようなものなのだ。
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