我が国の経済動向 8
金さえあれば贅沢できる
石丸次郎 経済破綻した状態でも、ジャンマダンが国民を食べさせているのだから大したものだ。これは奇跡だと言える。
ケ・ミョンビン 国家による計画経済が出来なかった奇跡を、ジャンマダンが起こしている。ジャンマダンが成長した原因は、それらいくつかの奇跡を創り出したからだ。
もちろん、破綻した配給制に代わって飢餓から人民を救った功績は言うまでもない。それ以外にも目に見える功績も少なくない。その中からいくつかを見てみることにしよう。
平壌市民は、六〇年代まで食べていたものの、その後すっかり忘れてしまっていた魚の味を、新しいジャンマダンが発生した九〇年代後半になってやっと思い出すことができた。
六〇年代後半、平壌市民に東海(日本海)の冷凍水産物を配給するという方針があったのだが、七〇年代に入って様々な理由でうやむやになってしまった。平壌では西長(ソジャン)洞(平壌市普通江(ポトンガン)区域)などに二つあった水産物直売店を通してしか手に入れることができなくなっていた。
それが八〇年代になってようやく、一部の平壌市民への水産物配給が実現した。冷凍品にすぎなかったが、それでも魚の味を味わえる特別待遇を受ける「市民」は幹部たちだけだった。
しかし今、平壌の新しいジャンマダンに行けば、昨日海で獲れたばかりの活ヒラメも、金さえ出せば買うことができるようになったのだ!
国家は人民に三〇年にわたって、「魚を食わせる」と宣伝して来たけれど、それは実現しなかった。その「歴史的課題」を、「苦難の行軍」で発生した新しいジャンマダンが短期間に実現してしまった。この奇跡の力の源は、いったいどこにあるのだろうか?
幹部専用配給所や、外国人専用商店にだけ存在していた南方の果物や外国製品を、ジャンマダンでは季節を問わず一年中販売している。もちろん、この南方の果物は、全て中国からの輸入品であることは言うまでもない。
「一億ドルあれば国営商店すべてに品物を山積みにして、朝鮮労働党第七次大会を開くのに」と言っていた金日成は、その念願を果たせないまま死亡した。金日成の死亡が一つの契機となって、壮絶な「苦難の行軍」が発生したが、その副産物として生まれたジャンマダンが、「品物を山積みにする」という念願を果たす奇跡を起こしたということになる。
一般民衆たちも、なぜ国営商店は空っぽのまま店を閉じてしまっているのに、ジャンマダンにはこんなにまで珍しい商品が山積みなのか、これは一体誰の力によるものなのか、よく理解ができなかった。
だが、徐々にその力の持ち主が自分たち自身だということに気付き始めている。
次のページへ ...